「限界です」老老介護の末…85歳妻を殺害した罪に問われた夫(80)の裁判 夫が語った事件の“分岐点”とは【#司法記者の傍聴メモ】
■「限界です」携帯電話に残された“葛藤”
実は、被告は事件前後に当時の心情をつづったメッセージを携帯電話のメールに保存していた。そこには被告が感じていた“葛藤”が記されていた。 事件前日の9月30日。 午前1時2分「中々死ぬ踏ん切りができません。でも限界です。やってみます」 午前1時29分「死ねるかな?!できるかな?!わからないけど息苦しいです」 午前2時4分「刃物は傷をつけてかわいそうなので首を絞めようと思います。自分が死ねるか心配です」「まだ勇気が出ません」 そして10月2日。 午前1時4分「ついにやりました」「申し訳ありません。あとは自分のことです。頑張ります」 午前3時4分「首を絞めた自分とそれを見ている自分がいます。息苦しいです」 午前10時33分「○○(妻)は楽になったのかな。俺はまだ生きている」
■“介護ストレス”が殺害の原因?被告人質問では…
なぜ被告は妻を殺害したのか。被告は被告人質問で、当時の気持ちを振り返った。 被告「理路整然としてしっかりしている妻が、自分がやっていることがわからなくなってしまったことがすごいかわいそうに感じた」「殺せば妻が楽になると思った」 変わりゆく妻への思いを口にした一方で、介護へのストレスについては── 被告「自分ではストレスを感じていた認識はありません」 “2人きりの家族なので介護するのは当たり前”だと話し、殺害の動機は、介護ストレスが原因ではないと話した。 被告は妻を殺害した後、自殺しようとしたという。 被告「2人して死ぬよりほかないと考えていたと思う」「妻を送った以上、私が生きているのはあり得ないと思った」
■「自覚のないまま疲労感を蓄積」判決は…
検察側は懲役7年を求刑し弁護側は執行猶予付きの判決を求め結審した裁判員裁判。 6月20日、東京地裁は判決で、「被告人が自覚のないまま疲労や疲弊感を蓄積させ、解決のための選択肢を持ち合わせない中で、視野を狭くして、犯行に及んだことは想像に難くない」として被告に懲役3年、執行猶予5年の判決を言い渡した。 判決の後、取材に応じた被告は、「正直執行猶予が付くとは思っていなかった。本当にこれでいいのか。私だけが表で普通の生活をしていいのかなという複雑な気持ちがある」と涙ながらに話した。