市川團十郎が“スピンオフ”を盛り込んだ『忠臣蔵』で四役早替りに挑む
人気の登場人物・斧定九郎にもフォーカスを当てて
観客として、次に楽しみな役は斧定九郎だろう。塩冶家の家老の息子だが今は山賊に身を落としている定九郎は、50両欲しさにおかるの父・与市兵衛を殺害。その後、イノシシを撃った勘平の鉄砲に貫かれて死ぬため登場時間は短いのだが、全身白塗りで黒紋付という浪人姿の定九郎は色悪の美しさを漂わせて人気のキャラクターだ。 團十郎は「由良之助のような真面目な人間が成功してほしいという気持ちが強くありますが、それには“悪”というものが対峙していないと分かりにくいかなと。『忠臣蔵』というのは外伝、今で言うスピンオフがたくさんある作品で、そのスピンオフの部分を本作に入れることが“裏表”という認識です。そういう意味で今回は斧定九郎という、いつもは『50両~』と言うだけで終ってしまう人間にフォーカスを当ててみようと考え中です。もちろん高師直も“悪”側なのですが、かなり位が高い人なので簡単に動かせないところがあって(笑)。その分、定九郎に暴れてもらおうということですね」と演出プランの一端を明かす。 さらにそのスピンオフの部分で人気の、塩冶家の腰元おかるとその恋人で同じく家臣の早野勘平の“おかる勘平”の場面は、「ここも“裏表”という形で、娘の市川ぼたんとせがれの市川新之助にやってもらおうと思っています」と團十郎。舞踊家として活動するぼたんが「幻想のおかる」に、新之助は「幻想の勘平」に扮するというから、こちらも楽しみだ。 「歌舞伎とは別の感覚で見ると、言ってしまえば高師直が部下の塩冶判官にパワハラして、その妻の顔世御前にセクハラして、という物語。そこから、普通の日常生活を送っている人間が刀傷沙汰を起こしてしまい大きな事件になっていく。高師直のような人って今もいるじゃないですか、傲慢で周りのことが見えてない、組織の上のほうにいる方みたいな(笑)。そんな人物像を歌舞伎として表現していきたいですし、そういう意味でもやっぱりストーリー性は大切にして作っていかなければと思います」と團十郎はざっくばらんに話す。 「『仮名手本忠臣蔵』は素晴らしい作品ですし、変えてはいけないものだと思っています。2025年の3月には歌舞伎座でも通し狂言が上演されるので、その前のお正月にひとつこういう提案もあるのではないか、というような気持ちで挑みたい」と語った團十郎。成田屋ならではの伝統と革新を担う、その本番が今から楽しみだ。 取材・文:藤野さくら <公演情報> 松竹創業百三十周年 初春大歌舞伎 双仮名手本三升 裏表忠臣蔵 公演期間:2025年1月3日(金)~26日(日) 会場:新橋演舞場