PISA2022で見えた「日本の教員はミラクル」な理由 課題山積で苦境の学校現場、解決への道すじ
日本の教育は高パフォーマンスを維持できるか
コロナ禍による一時の混乱から落ち着きを取り戻した学校教育。2024年は、学習指導要領が掲げる「主体的・対話的で深い学び」やプログラミング教育の充実、ICT利活用といった改革のさらなる推進が期待される。一方で、教員不足や過重労働をはじめ学校現場の課題が山積する現状について、文部科学副大臣や同大臣補佐官を歴任した東京大学大学院教授で慶応大学大学院の特任教授・鈴木寛氏は「厳しい環境の中でミラクルな働きで成果を出している先生方に報いることが必要」と話す。学校教育に社会は、どのように向き合っていくべきなのか。鈴木氏に現状を振り返ってもらいながら、新たな年に求められることを展望してもらった。 【写真を見る】「PISAで成果を出した日本の学校教員のミラクルな働きには感謝と敬意を表したい」と話す鈴木氏 ──2023年12月5日、OECD(経済協力開発機構)の「国際学習到達度調査」(以下、PISA2022)の結果が発表されました。 OECD加盟37カ国の中で、日本は数学的リテラシーと科学的リテラシーでトップ。前回(PISA2018)11位と低かった読解力も一気に2位まで上昇しました。 【PISA2022の結果】 数学的リテラシー:OECD加盟国中1位、全参加国・地域中5位 読解力:OECD加盟国中2位、全参加国・地域中3位 科学的リテラシー:OECD加盟国中1位、全参加国・地域中2位 ※OECD加盟国は37カ国、全参加国・地域は81カ国 教員の労働環境などの課題が指摘され、コロナ対応も大変であったにもかかわらず、思考・判断・表現を重視して主体的・対話的で深い学びへの転換を目指した学習指導要領改訂後初めてのPISAで成果を出した日本の学校教員のミラクルな働きには感謝と敬意を表したいと思います。 ──前回、OECD加盟国中最下位だった学校におけるICTの利用状況も改善しました。 「学校でのICTリソースの利用しやすさ」指標はOECD平均を上回り、5位まできました。ただ、学校間や地域間で格差があるのが実情です。ICT利活用が進んでいるのは全国約1700市町村のうちの200程度と見ています。 GIGAスクール構想によって小中学校に配布された学習用端末の更新についても、経済対策で総額2643億円の基金が創設されることになり、ハード面の問題は解決されました。次はソフト面の人の手当てなどです。都市部では、非常勤のICT支援員を集めることも可能ですが、地方では難しいところもあるかもしれません。 ──現在、学校では教員不足が深刻さを増していて、これまで以上に現場は余裕がなくなっています。こうした良好なパフォーマンスを今後も維持できるのか、予断を許しません。 確かに疲弊した教育現場では辞めていく現役教員も増えています。子どもたちと向き合うことにはやりがいを感じられても、一部の極端な保護者への対応を夜中まで強いられるといったことには深い徒労感があり、教員の心理的安全性は担保されていません。 メディアの喧伝などで浸透した3Kイメージもあって教職は、学生らからも敬遠され、教員の親でさえ、子どもが教員になるのを望まなくなっています。 教育に関する国際会議やシンポジウムで、各国の教育行政のトップの人たちと話すと、教職の不人気、教員不足は世界的な課題のようです。もともと、教職が不人気な国もあれば、日本のように以前はあった人気が下がっている国もありますが、共通するのは民間志向が強まっていることです。 民間企業では、働き方改革など法制面の整備だけでなく、企業間の人材獲得競争によって労働条件、労働環境の改善が進みました。しかし、教育現場は改善が進まず、民間企業との働く環境の格差は広がる一方です。 ──どうしたらよいのでしょう。 この構造的なギャップを埋めるには、教育の総人件費を引き上げることが必要です。とくに、日本は教育に対する公的支出のGDP比はOECDでも最低レベルです。 そんな状況でも高いパフォーマンスを出している教員の努力に、社会が理解を示さなければ、教育現場には「見捨てられた」という諦めが広がり、人材が民間企業に向かうことは避けられません。