バレンティンのバッティングの秘密を紐解く
55本の日本記録の更新どころか60本は超えるだろう。 そのうち調子が落ちる時期もくるだろうが、残り28試合で、悪くとも5本、多ければ7本から10本は打つと予測する。王さんの時代と違い、シーズンの試合数も144試合に変わった。バレンティンの偉業は、新しい時代の始まりと受け入れた方がいい。 ハンク・アーロンが、1974年にベーブ・ルースの持つ通算714本塁打の記録を抜き、その2年後に、王さんが、その記録を追い抜いき、アーロンの引退後、その世界記録を更新して新しい時代を作った。「記録は破られるためにあるもの」とは、誰かの名言だが、記録が破られるときに新しい時代が始まるのである。 では、なぜバレンティンはホームランを打てるのか? 統一球の“飛ぶボール”への変更や試合数云々を論じるではなく、バレンティンの技術を評価すべきだと思う。昨年春のキャンプの時点から明らかにバッティング技術が変わった。『後ろ』すなわちテイクバックが、これまでに比べて小さくなった。必然、スイングが非常にコンパクトになった。バットスイングがコンパクトになった影響でバットグリップがボールに対して最短距離に動く。体とバットが離れていない。つまり軸が安定しているのである。 コマの原理である。コマはぶれると、綺麗に速く回らないが、軸が安定しているので、コマの回転が速くなる。バレンティンは、低目のボールをホームランにできるが、その理由は、バットのグリップが最短距離に動き、コマの回転がぶれずに速いからヘッドスピードが増すのである。通常、テイクバックを小さくすると、飛距離は落ちると思われがちだが、バレンティンのバッティングには、もうひとつ特徴がある。バットの軌道である。 よくバッティング理論を論議する時、「ダウンスイングだ」「レベルスイングだ」と言われている。実は、バッティングとは、最初はダウン、次にレベル、そして最後はアップという3つのスイングが複合されて成り立っているものである。バレンティンは、そのレベルスイングの状態の時間が,非常に長い。肉体的なフィジカルの強さを生かしている。なかなか日本人ではできない技術だ。レベルスイングの時間が長いと、ボールを確実に芯で捉える可能性が高まり、ボールを右へ運ぶこともできる。その時間が長いのが理想だが、私も体格的には恵まれていなかったので、そのレベルの時間を長く保とうとしてもできなかった。彼は左手のフォロースルーが大きくて、それが「ボールを運ぶ」という飛距離を生み出しているが、レベルスイングの時間が長いからこそ、フォロースルーも大きくなるのである。