「母親になって後悔」学術書としては異例のヒット 世界中が共感した「あるべき姿の押しつけ」、一方で批判も
この本でインタビューに応じた23人の女性は26~73歳。次の2つの質問にいずれも「いいえ」と答えた人々だという。 (1)今の知識と経験を踏まえて、過去に戻ることができるとしたら、それでも母になりますか (2)あなたの観点から、母であることに何らかの利点はありますか 女性たちが後悔を抱え始めたタイミングはさまざまで、妊娠中、あるいは出産後、子育てがはじまってからという人もいた。23人中5人にはすでに孫がいた。現在進行形の苦しみを長年抱えていたことが伺える。 一方で注意したいのは、大多数が子どもを深く愛しているということだ。「ケアに時間や気力を取られて、自分の人生を生きられない」、「献身が求められがちで、母の役割が重荷だ」などと感じることはあっても、子どもの存在そのものは大切。 自分の後悔と、子どもの存在とは区別していた。 ドーナトさん自身は、16歳の時から「子どもは産まない」と心に決めていた。クラスの友人が母になることを「当然のこと」と受け止め、「将来子どもを3人授かって、それぞれにこんな名前を付けて…」などと話しているのを聞くたびに「私には向いていない。私は結婚しない」と感じていた。その思いは約30年後の今に至るまで変わっていない。
「母にならないことを選べないのなら、それは女性が本当の意味で、自分の体や生活について自己決定できる社会ではない」 インタビューでは、既に後悔を抱えている女性らに、周囲が何ができるかについても尋ねた。するとこんな声があった。「ひたすら当事者の話に耳を傾け、既存の価値観で判断しないこと。話を聞いてもらうだけで悲嘆が減ることがある」 ドーナトさんの次の研究テーマは、子どもを持たない高齢女性。性暴力の被害者を支援する組織でボランティアも続けており、声なき声を聴き、抑圧された人々のそばで活動を重ねていくという。 ▽実は多い男性読者。編集者「社会が女性に背負わせているものの重さ、解き明かしたい」 ドーナトさんにとって、これまで訪れたこともない日本で本が出版され、多くの共感を得たことは、想像を超える出来事だったという。「出版当初は、英語で翻訳されたら良いなくらいの気持ちだったから」 日本の読者からの感想も「ようやく悩みをオープンに話せる機会をもらえた。言ってくれてありがとう」「救われた」などと、多くの国と共通していた。ドーナトさんは「家父長制を始めとする、女性の生きづらさは世界共通の課題」と話す。