52歳で妻に逃げられた男が、美容整形を経て「16歳年下の彼女」と交際するまで
南米ブラジルでいま、男性のシックスパック整形手術が急増している。彼らはなぜ6つに割れた完璧な腹筋を求めるのか。腹部脂肪吸引の技術革新が著しいリオデジャネイロで取材した米紙記者は、この国の美容整形に対する考え方に衝撃を受けた。 【画像】52歳で妻に逃げられた男が、美容整形を経て「16歳年下の彼女」と交際するまで
離婚、整形、16歳年下の彼女
ジュニオール・カルヴァーリョの人生にほころびが生じたのは2022年春のことだった。29年間連れ添った妻から離婚を切り出されたのだ。 ワンベッドルームの質素なアパートに引っ越し、子供たちと会う機会も減った。食べすぎ、飲みすぎ、テレビの見すぎの生活を送った。 52歳にしてすでに老いを感じていた。孤独死は避けたかったが、こんな自分を誰が求めるだろうか。喪失感と不安を抱え、毎日何時間もビーチを歩いた。 歩くうちに体重が減りだした。ジムに通いはじめ、パーソナルトレーナーを見つけた。サプリメントとテストステロンを摂取した。鍛えて強くなり、筋肉もついたが、目標には近づけなかった。 彼が目指していたのは、ブラジルの太陽の下で、シックスパックの腹筋を輝かせながら颯爽(さっそう)とビーチを歩く、ありえないほど魅力的な男たちの容姿だった。 ネットで検索すると答えが見つかった。超高精細脂肪吸引だ。洗濯板のような腹筋を約束するこの施術は、ブラジルでいま急激に人気が高まっており、美容整形界に変革を起こしている。もともと同国は業界屈指の美容外科医を数多く輩出し、世界有数の整形率を毎年記録している。 昨今、美容外科手術を受けるのは女性ばかりでない。ブラジル形成外科学会によると、6年前は整形手術を受ける患者に占める男性の割合はわずか5%だった。それが2023年末には35%近くまで増えている。同じ期間にブラジル人男性に施された脂肪吸引の数は46%も急増したことが調査でわかっている。 この調査結果が物語っているのは、文化のなかで美の概念だけでなく、成功の概念も変化しているということだ。ブラジルでの美容整形費用は、ほとんどの国民には手が届かない。経済格差が極端なこの国では、シックスパックが格差を測るもう一つの指標になっている。 2022年11月、カルヴァーリョはこのムーブメントに加わった。クリニックを訪れ、メニューにあるほぼすべてをオーダーした。フェイスリフト、あごの整形、超高精細脂肪吸引、そしておそらくはひそかな楽観を込めて、精管結紮術(せいかんけっさつじゅつ)を受けた。総額は約1万ドルになった。 それから1年以上がたったいま、カルヴァーリョは16歳年下の女性と交際中だ。 リオデジャネイロには今日も完璧なビーチ日和が訪れようとしている。空は青く、海はターコイズブルー。アパートのバルコニーからはビーチに押し寄せる人々が見えた。 カルヴァーリョはコーヒーを飲み終えると、ビーチサンダルを履いて遊歩道に出て、タンクトップを脱いだ。日焼けした肌、平らな腹筋。彼が求めていたすべてがそろった。 「この腹はカネで買ったんだよ」と彼は言う。「人の視線を感じると、とてつもない感動を覚える」 元妻にいまの自分の姿を見てもらいたいと思う。 「虚栄心は美徳だよ」と彼はつぶやいた。