52歳で妻に逃げられた男が、美容整形を経て「16歳年下の彼女」と交際するまで
暴飲暴食でも腹筋は割れている
2019年6月、私は本紙ワシントン・ポストのリオデジャネイロ支局長に着任し、米国からブラジルへ引っ越した。リオのビーチにはいままで見たことのないような景色が広がっていた。息をのむ絶景でありながら混沌としていて、ブリーフ型の水着やTバックのビキニを着た美しい人たちでいっぱいだった。 もちろん、誰もが筋肉隆々だったわけではない。ほとんどの人が、というわけでもない。ブラジル地理統計院によると、ブラジル人の半数以上は過体重で、5人に1人が肥満だという。 しかし、ビーチでバレーボールをしたり、ウェイトリフティングをしたりと、極端に体を絞っている人の割合は驚くほど高かった。 その割合は、私がここに来て以降、増加している。やがて腹筋が6つに割れているのはジムの仲間だけでなくなった。なかにはそんな「資格」がなさそうな連中もいた。彼らはビールをぐいぐい飲み、何でも食べ、年配の人もいれば、ちょっとしまりのない人もいた。だがお腹を見ると、不釣り合いに腹筋がぎっしりとついていた。 私はキツネにつままれたような気分になり、もちろん嫉妬した。彼らの秘密は何なのか。生理学の法則を無視しているようだった。 そしてある人たちはまさに法則を無視していることがわかった。 ブラジルでは、ステロイドやクレアチン、テストステロン、プロテインのサプリ、栄養士、育毛治療、脱毛施術に頼る男性が増えている。人類学者や医師によると、その原因は一つではなさそうだ。ソーシャルメディアやコロナ禍が招いた孤立のほか、保守的なブラジル社会で男性は外見を気にかけるべきではないという偏見が薄れつつあることなど、複数の要因が絡んでいるという。