「仁義なき戦い」脚本家・笠原和夫の幻の傑作「十一人の賊軍」が描く新たな戊辰戦争…なぜ弱き者たちは闘い抜くことができたのか
再び脚光を浴びる
それから3年後、囚人たちが戦場に送りこまれるアメリカ映画『特攻大作戦』(67年 ロバート・オルドリッチ監督)が製作され、世界的に大ヒットするや、『ダーティー・ヒーロー 地獄の勇者たち』(85年 アンドリュー・V・マクラグレン監督)にいたる「懲罰軍隊もの(Penal military unit)」というTVシリーズが連綿と作られる。『十一人の賊軍』はこのジャンルの祖型でもあったのだ。 映画史の闇に消えたこの作品に再び光を当てたのは、荒井晴彦と絓秀実による笠原のインタビュー本『昭和の劇 映画脚本家 笠原和夫』(2002年 太田出版)である。この本で笠原は『十一人の賊軍』という未映画化脚本があることを初めて打ち明けた。 笠原は本書の出版直前の02年12月12日に身罷るが、翌年(03年)刊行された『笠原和夫 人とシナリオ』(シナリオ作家協会)に編者の荒井晴彦が笠原宅に残されていた『十一人の賊軍』のプロットを掲載し、春日信一が「浪漫シナリオ文庫」(kindleで読める)に収録することで、この作品は遍く世に知れわたった。 2013年、そのプロットに目を留めたのが出世作『凶悪』(山田孝之主演)を撮ったばかりの白石和彌である。『切腹』(62年)、『上意討ち 拝領妻始末』(67年 ともに小林正樹監督)に感銘を受けた白石はいつか『十一人の賊軍』を撮りたいと願う。そして10年後、「孤狼の血」二部作(2018~21年)などで白石とタッグを組み、集団抗争時代劇や実録やくざ映画が体現する「東映スピリット」を再生する夢を抱くプロデューサーの紀伊宗之が白石の思いを叶えた。 池上純哉の脚本は、11人全員が死ぬ原案に対し、もっとも弱き者が生き残り、彼らが死者の思いを叶える。そして、女性キャラクターを書き加え、女性同士の連帯を描いた。さらに、街を戦火にさらさず、民を守る新発田藩家老の思想を明確にした。 十一人の賊軍のリーダー格に山田孝之、和平を画策する家老に対して薩長軍への徹底抗戦を主張する剣術道場の主に仲野太賀、藩の家老に阿部サダヲ。この3人のアンサンブルが良い。