「クラシックカーの隣でガレージ葬」「15万円で済む“小さなお葬式”も」 コロナ後の葬式、最新事情をレポート!
「地域の方々と共に生きて、死んでいく覚悟」
もう一カ寺は神奈川県大磯町の東寺真言宗東光院。 着いて、目を見張った。本堂の半地下が、「生老病死」関連の本が約2500冊並ぶ、広いフリースペースだったからだ。老若男女7~8人が思い思いにくつろいでいるのと同じ空間に、大澤暁空(ぎょうくう)住職(39)と寺務・執事の古井昇空(しょうくう)さん(44)がいらした。 「平成29(2017)年に葬儀を始めた理由ですか? 寺の時間軸は長い。大磯という土地で、私たちは地域の方々と共に生きて、死んでいく覚悟だからです」 と大澤住職。どういうことか。 古井さんが、「夫が自死したAさん」を例に挙げた。Aさんは損傷の激しい夫の遺体と対面した。他に対面をしたのは、警察と葬儀社の担当者だけだ。何十年も経て、Aさんが込み上げる思いを吐露したくなったとき、警察や葬儀社の担当者は元のポジションにいないだろう。「転職も転居もない自分たちが見送りをお手伝いしていたなら、後にAさんの思いを聞くためのステージに立てたのではないか。そんな後悔があるんです」と。
営利を追求しない
葬儀社と同様、あるいは同様以上の工程をすべて二人で行う。くぼんでいる目の付近に詰め物をしてふっくらさせる、膨れている腹からカテーテル等を通して腹水を抜くなど、遺体を生前の元気な頃の姿に近づかせる技のほか、湯灌(ゆかん)や死化粧、納棺の手法も「復元納棺師」に師事して習得した。葬儀社に依頼すると価格が跳ね上がるそうした技も、ここでは無償。通夜30人、葬儀20人を想定した葬儀費用は、会食や返礼品など全てを入れて30万1814円。棺やケア用品などは仕入れ値に全く利を乗せず、「実費弁償」というやり方を採用。遺体の搬送車に白ナンバー車を使用しているのも、営利を全く追求しないからだ。 葬儀は、檀家に限らず、「どなたでも」引き受ける。近ごろとみに依頼が増えており、今年度(24年6月決算)は50件を超えそうだという。 ちなみに、この寺はどこから収入を得て成り立っているのかと聞くと、「布施や護持会員からなる活動支援金です」と二人。葬儀を入り口に檀信徒になる人が少なくないとも。また、決算を開示しており、5年分の決算報告を明記した冊子を私にも下さった。 ことほどさように、葬儀のありようは、今、多様化の一途をたどっているもよう。「死」を考えさせられたコロナ禍が、人々の「右へ倣え」思考に反省を促したのか。「小さく安く」に行き着き、私たちは「心」を置いてきぼりにしていたことに気付いた。揺り戻しがゆっくりと始まっているのかもしれない。 後編「『“俺、墓がないんだよ”と呟いた元夫を納骨できた』『ペットと入れるお墓も』 コロナ後のお墓のトレンドとは」では、30万円で有名寺院にお墓を作る方法や、ペットと同じお墓に入る方法など、お墓の最新トレンドを紹介している。 井上理津子(いのうえりつこ) ノンフィクション・ライター。1955年奈良市生まれ。京都女子大学短期大学部卒。タウン誌を経てフリーに。人物ルポや町歩き、庶民史をテーマに執筆。著書に『旅情酒場をゆく』『さいごの色街 飛田』『葬送の仕事師たち』『絶滅危惧個人商店』『師弟百景』『葬送のお仕事 (シリーズお仕事探検隊)』など。 「週刊新潮」2024年7月4日号 掲載
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