「物価が上がらなくても…」政府と日銀がひた隠す日本経済の「知ってはいけない真実」
物価が上がらなくても賃金は上がる
「賃金と物価の好循環」というスローガンの大きな問題は、物価が安定する中で所得が増えてほしいという国民の期待を否定して、物価が上がらなければ、賃金が上がらないと決めつけることにある。 たしかに、人件費をコストと考えているかぎり、それは削減すべき対象となり、物価が上昇しないと賃金は上がらない。しかし、ここは発想の転換が必要だ。 物価が上がらなくても、賃金は上がる。賃金を上げるために必要なことは、新しい価値を生み出し、その価値に見合った価格を設定して、それを消費者に受け入れてもらうことだ。 価格が上がっても物価が上がるとは限らない。物価とは同じ価値の商品の単価の推移をみるものだからだ。つまり、価値の拡大に見合った価格の上昇であれば、物価を上昇させる要因にならない。同時に、価値の拡大に対する貢献に見合って、働いている人に利益を配分するようになれば、物価が上がらなくても所得は増える。 日銀としては、これまでやってきたデフレ脱却のスローガンを否定したくないので、物価が上昇している方が好ましいということにしたいのだろう。しかし、物価の安定を目指す中央銀行であれば、所得が増えても物価が安定している状況を目指すべきではないか。 実は、政府も日銀もここにきて、そうした状況を目指すことの必要性を理解し始めているようだ。
日本経済が目指すべきこと
岸田首相は、賃金と物価の好循環に向けた企業経営者との懇談の後に、「良いものには適切な値段が付き、賃金が上がることが当たり前という意識を普及させ」、「物価上昇を上回る賃上げを定着させていくために、賃上げの原資となる企業の稼ぐ力を強化することが必要」という趣旨の発言をしている。 また、日銀の氷見野副総裁も講演の席で、企業の賃金・価格設定行動の変化を4段階に分けて説明し、賃金と物価が相互に作用しあう第2・第3段階から、価格戦略に多様性が生まれ、「良い商品を安く」に加えて「魅力ある商品を相応しい価格で」にも取り組みやすくなり、生産性向上のための選択肢も広がる第4段階へ移行していく道筋を描いている。 日本経済が目指すべきは「賃金と物価の好循環」ではなく、「価値創造と所得拡大の好循環」だ。政府・日銀も本気でそう考えるのであれば一日も早く、「賃金と物価の好循環」という旗を降ろして、「価値と所得の好循環」を国民にまず訴えるべきではないか。
鈴木 明彦