【意外と知らない】工場のラインはこんなに進化している!ホンダの「フレックスセル方式」とは?
ホンダは「Honda 0 Tech Meeting 2024」を開催し、2026年からグローバル市場への投入を予定している新たな電気自動車(EV)、「Honda 0(ホンダ・ゼロ)シリーズ」への搭載を予定している次世代技術を公開した。ホンダの次世代技術のすべてをジャーナリスト、世良耕太氏が解説。第5回は今回は生産効率を高め、柔軟性を備える新開発のフレックスセル生産方式について解説する。 【写真】自由度の高い運用が可能なフレックスセル方式 TEXT :世良耕太(SERA Kota) PHOTO :Honda/MotorFan.jp 「フレックスセル」は柔軟性を高めた生産システム Honda 0シリーズが搭載する薄型バッテリーパックの生産から、新たなものづくりが始まる。ホンダはかねてから自動化率が高く、高効率なラインを構築している。ロボットを使った自動化技術開発には10年以上前から取り組んでおり、ホンダの生産技術の基盤となっている。 いっぽうで現在の状況に目を移してみると、EVへのシフトは進んでいるものの、電動化時代だからこそ必要な変化、進化の構えとして、売れ筋や生産量など市場変化への追従が課題となっている。また、製造業では雇用の確保が課題となっている。人材不足や人材多様化に対する構えも必要で、自動化の拡大と作業者支援の拡充が急務だ。 Honda 0シリーズの生産から導入するフレックスセル生産システムは、ホンダがこれまで培ってきた生産技術を基盤としながら、さらに柔軟性を高めた生産システムである。従来のライン生産では、生産量の変化や製品仕様の変化が起きた場合、一度ラインを止め、ラインを改造・増設した後に再開する必要があった。この方法では生産量の変化や製品仕様の変化のたびにラインを止める必要があり、生産効率を低下させる原因になる。また、直列のラインであるがゆえ、装置がひとつ故障すると生産ライン全体が停止する弱点を抱えてもいた。 大きなライン(線)ではなく、セル(小さな区画)の集合体 ライン(線)ではなく、セル(小さな区画)に置き換えたのが、フレックスセル生産システムである。このシステムを採用することで、生産活動を維持しながら、必要な場所にセルを追加することで生産量の増加や仕様変化への対応がスムーズに行なえるようになる。また、ひとつの装置が停止しても生産を続けることができるため、安定した生産量を維持することが可能だ。 https://youtu.be/m7uPdIjI0ZM 薄型バッテリーパックの組み立てラインは自動化セルゾーンと作業者セルゾーンに分かれており、部品の搬送はAGV(無人搬送車)がすべて行なう。Honda 0シリーズの生産にあたっては、ひとつの拠点に2つのバッテリーパック生産ラインを導入する計画。この2つのラインを使って市場ニーズに応えながら、フレキシブルな構えを成立させる考えだ。 ホンダはフレックスセル生産システムの問題点も認識している。セルを増加させていくことでAGVによる搬送経路が複雑になること。また、セルの組み合わせパターンが複雑化することである。これらの問題に対しては、デジタル技術と知能化技術を用いて解決していく。セルが増えることによって生じる搬送経路の複雑化については、現実世界をコンピューター上の仮想空間に再現するデジタルツインを活用する。この技術を活用することでAGVの搬送経路を事前にシミュレーションし、生産準備段階で完成度を高めておくことができる。 https://youtu.be/I5-QcAP6BlA 問題の複雑化をデジタルツールで解決 従来の直列ラインでは問題の発生箇所を特定しやすかったが、セルの組み合わせパターンが複雑化すると、問題が発生しているセルを特定しづらくなる。この問題の解決にもデジタルツールを活用する。不具合が発生する条件の共通点を探し出し、解析することで問題のあるセルを特定。このシステムを導入することで、原因究明の時間を大幅に短縮でき、ライン全体の安定稼働につながる。 https://youtu.be/syf9PXiKPO8 さらに、AGVの搬送経路指示システムに知能化技術を導入していく。AGVの混雑状況や各設備の稼動状況、人の作業時間のばらつきなどを考慮し、ライン全体を把握しながらAGVの経路をリアルタイムに最適化することで、高効率かつ安定的な生産につなげていく。 知能化技術は品質保証にも適用する。従来の組み立てラインでは、人による部品の組み付け作業を人が品質保証していた。これに対し、Honda 0のバッテリーパック組み立てラインでは、作業者が装着するカメラで組み立て作業を認識させることにより、品質保証はデジタルツールが担う。 https://youtu.be/YO6vaBDIR78 Honda 0 Tech Meeting 2024では、作業者がバスバーと呼ばれる部品をネットランナーでバッテリーケースに固定する作業のデモが披露された。作業者の近くにあるサブモニターの上部には、作業者が頭部に装着しているカメラの映像が表示され、下部には作業を行なった結果が表示される。カメラが捉えた映像をもとにデジタルツールが品質保証を行なうことで、作業者の精神的な負担軽減を図る考えだ。このデジタルツールの適用は、Honda 0シリーズを皮切りに、順次拡大展開していくという。
世良耕太