旅立ちの時に後悔しないように…80代の女性患者が「毎日の化粧」を絶対に欠かさなかった理由
比較なんてしなくていい
死をポジティブに捉えること。それもまた、人生の後半戦を生きるうえでの大切な心得だ。前出の後閑氏は「清潔な服を身につけたり、化粧など身なりを整えたりすることも大事」だと語る。 【写真】朝起きたら、横にいる夫が突然死んでいた日の話 「ある80代の女性患者の方は、死んでもう一度、夫と会えることをとても楽しみにしていて、そのためにまだ自分で動けるうちから、自宅を処分して入院されてきました。そんな彼女は『いつ夫と天国で会ってもいいように、綺麗にしておくのよ』と言ってお化粧をするのが日課でした。 私は彼女の意思を知っていたので、寝たきりになって意識が無くなった後も、お化粧とまではいかないまでも、本人がしていたように毎日化粧水を塗ってあげていました。最期は夫と会えることを楽しみにしていたからなのか、とても幸せそうに亡くなられました」 終末期にはそれまでの「当たり前」は通用しなくなる。身体は重くなり、それに同調するかのように心も暗くなりがちだ。 とくに現役時代にサラリーマンとして競争社会を生き抜き、道を切り開いてきた人は、自分の身体を思うようにコントロールできないもどかしさから、心が沈みがちだ。そんなときは、大切にしてきたものを手放し、託すことで心が軽くなる。 「まずは『自分でなんでもできて当たり前』『役に立たない自分に価値はない』という気持ちから解き放たれることが必要です。そのために、それまで大事にしていたものを誰かに託すのです。自営業を営んできた方であれば、自分の価値基準や理念を大切にしてくれる人を見つけ、継承する。 具体的なモノでもいい。たとえば、趣味の道具を誰かに譲るだけでも心は救われます。釣り好きな人なら、もう釣りに出かけられないことを嘆くのではなく、竿やルアーを同じ趣味を持つ若い世代に託す。自分が大事にしてきた釣り道具が持ち主を変えて、使われ続けるのは大きな喜びとなり、生活に穏やかさが戻ってきます。死を前に抱えているものを少しずつ手放していけば、心も軽くなっていきます」(前出・小澤氏) 「週刊現代」2024年4月27日・5月4日合併号より
週刊現代(講談社)