長寿社会だからこそ気をつけたい…高齢者に多い「緩徐進行1型糖尿病」
100歳以上の百寿者が10万人に迫る長寿社会・ニッポン。元気なお年寄りが増えるのはめでたいが、長寿社会がこれまでまれだった病気を増加させていることも忘れてはいけない。そのひとつが大人の1型糖尿病だ。 元エアロビック日本代表の大村詠一さん語る1型糖尿病との闘い 日本では糖尿病の95%は生活習慣が原因の2型糖尿病で、それとは無関係の1型糖尿病は5%程度に過ぎない。その多くは若者だったが、最近は高齢者の1型糖尿病発症が増えているという。なぜか。糖尿病専門医で「しんクリニック」(東京・蒲田)の辛浩基院長に話を聞いた。 「1型糖尿病とは、自己免疫がインスリンを分泌する膵臓のβ細胞を破壊することにより発症する糖尿病です。全身の細胞に糖分を送り込むのに必要なインスリンが枯渇するため、注射でインスリンを体外から補う治療が必要となります。乱れた生活習慣などによりインスリンが効きにくくなったり分泌量が低下する2型糖尿病とは異なり、生活習慣の改善などで治せるわけではありません」 1型糖尿病は病気の進行速度に応じて、「劇症」(発症はβ細胞破壊から数日で)、「急性」(同数週間~数カ月)、「緩徐進行」(同それ以上)の3タイプに分かれる。一般的な1型糖尿病のイメージが子供の病気とされているのは、1型糖尿病のほとんどが急性であり、その大半が思春期前の子供が占めているからだ。 「子供に急性が多い理由は複数あります。例えば1型糖尿病は特定の遺伝子が関係していることがわかっています。そのため、何かのきっかけで特定の遺伝子のスイッチが入れば、大人になる前に発症する可能性があるのです。何かのきっかけがウイルス感染であることもあるでしょう。免疫反応を引き起こし、それがβ細胞攻撃につながる場合もあります。だからこそ感染症にかかりやすい子供が急性1型糖尿病になりやすいとも考えられるのです。また、成長途上の子供の膵臓機能は免疫から異物と判断されやすいのかもしれません」 実際、新型コロナが流行していたときには、新型コロナによる子供の「急性」「劇症」1型糖尿病が世界中で増加した、と報告されていた。 米国のケースウエスタンリザーブ医科大学が2022年に発表した論文によると、新型コロナに感染した小児と若年者は新型コロナの診断から6カ月以内に1型糖尿病を発症する傾向が高かったという。調査では18歳以下の新型コロナ患者での1型糖尿病の新規診断が72%増加した。米国など13カ国の18歳以下の109万1494人の患者の電子記録を解析した結果だ。 急性1型糖尿病になると、糖尿病の急性合併症である糖尿病ケトアシドーシスが起きる。喉の渇き、多汗、倦怠感といった糖尿病症状が急激に現れ、悪化すると嘔吐、呼吸困難、意識障害などを起こす。困ったことに過去1~2カ月の血糖値を表すヘモグロビンA1cの値があまり上昇しないことがわかっている。 ■長年の2型糖尿病治療が限界に 劇症1型糖尿病は、急性1型と同じように糖尿病ケトアシドーシスの症状が現れるが、発症者の多くは20歳以上であり、発症直前に風邪症状があることが多いことなどが報告されている。 「近年は、がん治療に使われる免疫チェックポイント阻害剤である抗ヒトPD-1/PD-L1抗体に関連して劇症1型糖尿病が発症することが報告されています」 そうした中、最近じわじわと増えているのが緩徐進行1型糖尿病だという。 「緩徐進行1型糖尿病は1型糖尿病に含まれますが、急性発症や劇症とは違い、ケトアシドーシスに陥るケースは少なく、2型糖尿病のような発症形式をとります。そのため、2型糖尿病と診断され、治療されることがありますが、そもそも膵臓のβ細胞が破壊されているので、生活習慣をいくら改善しようと努力しても、インスリンを外から補充しない限りは症状は変わりません」 緩徐進行1型糖尿病を発症しているか否かは、内因性インスリン分泌能(C-ペプチド)を測定し、その値が低値だと診断できるという。 「高齢者で、高血糖が続き内服薬でダラダラ治療していると、インスリンを分泌する膵臓のβ細胞が枯渇する可能性があります。その場合はインスリンを使いβ細胞を休息させることが緩徐進行1型糖尿病の発症を抑える方法のひとつです」 高齢者のなかには「注射だけはいやだ」とかたくなにインスリン療法を拒否する人もいる。しかし、そのなかには、実は緩徐進行1型糖尿病を発症している人もいるかもしれないのだ。