サーキュラーエコノミー実現へ鉄鋼・非鉄の動き活発化
近年、急速に目にする機会が増えた「サーキュラーエコノミー(循環経済)」という言葉。定義はさまざまだが、おおむね「大量消費・大量廃棄から脱し、ストックの有効活用とサービス化で付加価値を生み出す経済」を意味する。CEは2015年12月、EUが循環経済の方向性を示した行動計画「CEパッケージ」の発表を機に普及し、いまや世界的な潮流となっている。日本で使われてきた「循環型社会」という言葉と類似するが、CEは「資源循環」を「経済成長」につなげる経済政策の側面が強く、新たな経済システムの構築を狙いとした「経済システムの大改造」と評される。3RからCEへの政策転換を受け、鉄鋼・非鉄金属業界でもCE実現に向けた取り組みが活発化している。先導的な事例を紹介する。 サーキュラーパートナーズ/齋藤経産相「CE実現の帰趨を決する」/日本変える原動力に/鉄鋼4団体など参画 サーキュラーエコノミー(CE)実現に向けた産官学のパートナーシップ「サーキュラーパートナーズ(CPs)」が始動した。先月22日、東京・大手町の経団連会館とオンラインによるハイブリッド形式で開催された「第1回総会」=写真下=で活動を開始。齋藤健経済産業大臣は「当パートナーシップの成否がCE実現の帰趨を決すると言っても過言ではない。参加者が同じ志をもつパートナーとして手と手を取り合い、日本を変える原動力になると信じている」と語った。 CPsは経産省が昨年3月に策定した「成長志向型の資源自律経済戦略」に盛り込まれた「産官学連携の強化」を具体化した組織。鉄鋼・非鉄関連を含む幅広い業種の企業や団体、自治体、研究機関など307社・団体が会員となっている。鉄鋼業界としては日本鉄鋼連盟がCPsの会員となり、同連盟に連携する形で日本鉄リサイクル工業会と普通鋼電炉工業会、特殊鋼倶楽部が参画を表明している。 CPsには委員16人で構成されるガバニングボードと、今年度は三つのワーキンググループ(WG)が設置された。「ビジョン・ロードマップ検討WG」の座長には細田衛士東海大副学長、「CE情報流通プラットフォーム構築WG」の座長には梅田靖東大大学院教授、「地域循環モデル構築WG」の座長には野田由美子ヴェオリア・ジャパン会長がそれぞれ就任した。 CPsでは今年3月に第2回総会を開催し、3WGで意見聴取を進める。その中で、鉄鋼業におけるCE実現に向けた取り組みも具体化していく見通しだ。 動静脈連携/ゼネコン・電炉・鉄スクラップ、業界の垣根越え/「 鉄のクローズド・ループ」構築も 自動車や家電などの製品を消費者に供給する「動脈産業」と、消費者が使い終わった製品などを回収・再資源化する「静脈産業」。CE実現に向けて両産業が手を組み、付加価値を生み出す「動静脈連携」が極めて重要となっている。鉄鋼分野では再生鉄源である鉄スクラップの循環スキームでゼネコンと電炉メーカー、鉄スクラップ業の「業界の垣根を越えた」連携が始まっている。 先月12月、竹中公務店がCE実現に向けて提唱するコンセプト「サーキュラーデザインビルド」に基づき、鉄スクラップ業の巖本金属、電炉メーカーの岸和田製鋼、共英製鋼、東京製鉄の5社が連携すると発表した。「サーキュラーデザインビルド」は建物の設計・施工段階でリユース・リサイクル材の選択や、解体を考慮した設計の検討・実践などを称する。5社連携では解体で発生する鉄スクラップの循環サイクルを最適化、使用エネルギーやCO2排出量を可視化・最小化する。具体的には共通プラットフォームでトレーサビリティを確立し、原料加工から鋼材製造、建物の設計、施工の各段階で効果を可視化する。 また、大成建設は鋼材の資源循環サイクルを構築する「ゼロカーボンスチール・イニシアティブ」を始動させ、昨年4月に第一弾として東京製鉄の参画を発表した。建物のライフサイクルでのCO2排出量を正味ゼロにする「ゼロカーボンビル」の建設を推進する。 鉄スクラップと鋼材の循環スキームでは昨年10月、総合リサイクル業のリバーと東京製鉄、エムエム建材の3社が「鉄のクローズド・ループ」の取り組みを発表した。リバー藤沢事業所(神奈川県藤沢市)の建て替え工事で発生する鉄スクラップを東鉄の宇都宮工場に納入し、東鉄が製造した鋼材を同事業所の鉄骨工事で使用する。工事は昨年8月に始まり、25年9月末に完了の予定。鉄スクラップ国内循環を可視化・明確化する新たな取り組みとして注目される。 鉄スクラップ高品位化/「H2母材の破砕・選別」、SRRが提案/EVERSTEEL、AI活用でトレーサビリティ確保 経済産業省が主導して先月22日にキックオフした「サーキュラーパートナーズ」。鉄鋼分野では高炉の電気炉シフトに伴う鉄スクラップ需要拡大に対応した「高品位な鉄スクラップの大量創生」が極めて重要なテーマとして浮上しそうだ。 鉄リサイクリング・リサーチ(SRR)の林誠一社長は、先月6日に主催したオンラインセミナーで鉄スクラップ高品位化の現実的な処方箋としてH2やH3の母材をシュレッダーに投入する取り組みを提案した。鉄スクラップ業者のコスト負担を考慮し、購入側の鉄鋼メーカーには「破砕・選別で銅などの不純物が少なくなったスクラップに『プレミアムシュレッダー』との名称を付け、インセンティブ付加をお願いしたい」と要請。低品位スクラップの高品位化という課題の解決には「需給双方が本気で協業することが不可欠だ」と力説した。 林社長は2050年の品種別需給を分析し、新断やHSなど高品位スクラップが「年470万トンほど定常的に不足する」と予測。選別の工夫で既存シュレッダーを高品位化するとともに、H2とH3を合計した22年流通量760万トンの約3割をシュレッダー投入する必要を指摘し、特にシャーリングとシュレッダーの両方を有する鉄スクラップ業者に「シャーリング母材の3割をシュレッダーに回す」取り組みを提唱した。 鉄スクラップの品質管理にAI(人工知能)を活用するシステム導入も電炉メーカーで広がりを見せている。鉄スクラップAI検収システムを手掛けるEVERSTEEL(社長・田島圭二郎氏)は鉄スクラップのトレーサビリティを確保する製品「鉄ナビ流通」を同セミナーで紹介。鉄スクラップの高品位化としてプレス監視機能を盛り込んだ。田島社長は禁忌物・成分分析の結果データを納入する鉄スクラップ業者に展開することで、供給側から禁忌物の混入抑制につなげることも提案。また、鉄スクラップの品質向上にはダスト・成分測定の第三者機関設立が有効とした。第三者機関によるチェック結果を証書として発行し、データベースに反映することで品質を担保する考えを示した。