「生成AIは面白い」日本マイクロソフト津坂美樹の対話術
「ラッキーでしたね。入社の1年半前から話はいただいていたのですが、当時は生成AIが話題になる前で、私もこんな事態を想定していませんでした。ところが、入社約1カ月前にサティア・ナデラが『マイクロソフトのすべてのサービスに生成AIが入る』と発表。思わぬ世の中の動きと私個人の転職が重なった」 ボストン コンサルティング グループ(BCG)で経営会議メンバーやCMOを務めた津坂美樹が、日本マイクロソフト社長へと転身したのは2023年2月。OpenAIがChatGPTを発表して世の中が驚愕した数カ月後のタイミングだったが、本人は変革期におけるトップ就任をこう振り返った。 生成AIは社会を進化させる強力な武器だ。しかし、それを提供するには、まず自身が使いこなさなければならない。テック業界出身ではない経営者にとって高いハードルのように思えるが、津坂にとって生成AIは「面白い!」が第一印象だった。 「議事録ができて、日本語が英語になって、パワポがすぐつくれて。コンサルってパワポが大好きじゃないですか。私も死ぬほどつくってきたのに、えっ、こんなに簡単にできちゃうの?って(笑)」 実際、津坂はマイクロソフトの生成AIサービス「Copilot」を使い倒している。朝はCopilotに「昨日返事しておくべきだったメールとTeamsを教えて」と質問。すると、緊急に返信が必要なものや今日中でいいものなどを整理してくれる。返信用ドラフトまで用意してくれるので、あとはアレンジして送るだけでいい。業務効率化に使うだけではない。商社との商談があれば、「バフェットはなぜ日本の商社に投資しているの?」と質問。Copilotを相手に壁打ちして業界のリサーチや自分の考えを深掘りしていく。 こうした使い方を重ねてきたことでAIへの指示構文であるプロンプトのスキルも上がった。 「ふわっとした質問だとふわっとした答えしか返ってきません。例えば『面白いジョークを書いて』で返ってくるジョークはまったく面白くない。仕方がないので、スピーチでCopilotのジョークをあえて聞かせて、『つまらないでしょ』とツッコんで笑いを取っています」 AIを使い倒すほかにも、トップになって取り組んでいることがある。 転職に際し、津坂は付き合いのある社長たちに経営者の心得を尋ねて回った。ある社長は「社長室のある上層階にいちゃいけない。地下1階まで下りて、組織の人たちが何を考えているのかを学びなさい」。この言葉を素直に実践して、入社から90日間は社内の勉強をすると決め、数百人のリストをつくってあらゆる層にインタビューした。 聞くだけではない。毎週金曜、その週に抱いた思いを社員にメールで発信した。何らかのかたちでメッセージを出す社長は珍しくないが、書きっぱなしにしないところが津坂流だ。 「開封率を調べたら70%で止まっていました。それでメールから社内SNSにチャネルを変えたり、動画をつけたりして試行錯誤。動画は2分以内だと見てもらえるとわかったので、今は短い動画をつけています」 コミュニケーションを重視する姿勢は、今に始まったことではない。津坂は幼少期をアメリカで過ごし、小学3年生の時に日本に戻ってきた。級友たちは色黒で三つ編み、日本語が拙い津坂を見てからかった。