「家系」「二郎系」の厚い牙城を崩せるか? 九州発信スープが透明な"ニュータイプ豚骨ラーメン"とは
日本全国のラーメン店の発掘と紹介をライフワークとし、年間700杯以上のラーメンを食べ続け、生涯実食杯数は20,000杯超という日本屈指のラーメンフリーク、通称「ラーメン官僚」こと、かずあっきぃ氏がラーメンについて語り尽くす短期連載。第2シーズンでは「豚骨ラーメンの今までとこれから」について3回にわけて語ります。(前中後編の中編) 【写真】ラーメン官僚がおすすめする今アツい豚骨ラーメン5 【写真】ラーメン官僚がおすすめする今アツい豚骨ラーメン5 豚骨ラーメンを出すお店は、どうして街中にたくさんあるのでしょうか。 もちろん例外はありますが、誤解を恐れずに申し上げれば、概して、作り手に求められるハードルがそれほど高くないからです。豚骨の各部位から採れる出汁の特徴を頭に叩き込んだ上で、個々の店舗の方針に従って豚骨を注意深く炊き上げれば、一定水準のスープができる。作り方を具体的にマニュアル化すれば、熟練の作り手がいなくても、店を回すことができるわけです。複数の人員が作り手となれるわけですから、営業時間も延ばせるし、店の数も増えます。 しかし、魚介出汁のラーメンを作るとなれば、事はそう簡単ではありません。魚介スープの素材は、節・煮干し・昆布・鮮魚など、動物系とは比較にならないほどバラエティ豊かです。数多くの選択肢の中から、何を、どれだけ、どのように使うのか。じっくりと考えて、素材を足し引きしながら、スープを創り上げていきます。場合によっては、この季節の旬の素材は何かといったことにも思いを馳せながら、造り込んでいく必要があるので、当然、作り手を選びます。 魚介を用いたラーメンは、今申し上げた理由によって、作り手ごとに出来上がりの味が全く異なるものとなります。言い換えれば、様々なタイプの味を食べ手に提示できるということです。そういう事情も相まって、率直に申し上げれば、今、完成時の味がある程度予測できる豚骨ラーメンの人気は、やや押され気味です。「豚骨ラーメン」というジャンルの中で元気なのは、「家系」と「二郎系」くらいでしょうか。 「家系」と「二郎系」の現状について、少し説明しておきましょう。2000年代、『ラーメン二郎』が注目を浴びたことがキッカケで、ガッツリ系ラーメンブームが到来しました。それを受けて『ラーメン二郎』の味やスタイルを模した「二郎インスパイア系ラーメン」が大流行しましたが、ブーム過熱化の陰で粗悪品も乱造されました。ブームから10数年が経過し、今では、質が悪い「二郎インスパイア」を出す店は淘汰され、生き残っているのは大体優良店です。 「家系」については、2010年代半ば頃から、都内を中心にチェーン店舗化が急速に進み、各駅に一店舗とでも言わんばかりの勢いで、『町田商店』などのいわゆる「商店系」の店舗ができました。今では、それに、新中野の『武蔵家』、大塚の『野中家』などが展開する店舗群が加わり、一都三県(東京・神奈川・千葉・埼玉)のどこでも、ある程度のクオリティの家系ラーメンが食べられる状況となっています。 現状、一都三県の豚骨ラーメン市場は、「二郎インスパイア系」と「家系」が2トップとして君臨し、それ以外の豚骨ラーメンを出す店舗は、それぞれの店にコアな固定ファンが付いている、というのが実態だと思います。