【大学野球】早大・小宮山悟監督にとって“父”と言える存在 徳武定之氏の思いを背負って「秋日本一」へ
吉納の座右の銘は「泰然自若」である。徳武氏から授けられた言葉だ。「早稲田の主砲として、いかなるときも、堂々としてほしい」との願いが込められていた。優勝がかかった今春の早慶戦1回戦では2本塁打を放ち、7季ぶりのリーグ制覇に貢献。大一番を前にスイングチェックをしてもらい、徳武氏から「大丈夫だ!!」と背中を押されていた。今秋は4本塁打、16打点もシーズン中盤以降は苦しんだ。東大、法大との2カードを終えて18打数8安打、4本塁打、15打点。ところが、残る3カードは29打数2安打、1打点と快音が聞かれなくなった。そこで、徳武氏からのアドバイスを思い出した。明大との優勝決定戦では2安打を放ち、有終の美を飾っている。 川内学生コーチは3年秋まで、神宮球場の徳武氏が座るシート横で、戦術等を学んできた。多くを参考にして最終学年、リーグ戦での実戦に落とし込んだ。9年ぶりの春秋連覇は、徳武氏の尽力もあったのである。 早大の秋の戦いはまだ、終わっていない。11月20日に開幕する明治神宮大会に出場する。早大の活動拠点である、安部球場の一塁ベンチのホワイトボードには「連覇を遂げ、神宮大会を制し『日本一』となる資格のあるチームになる」とある。今年6月、全日本大学選手権決勝で青学大に敗退した。小宮山監督は強さだけでなく、学生野球の模範となるチームを目指すべく、この言葉を自らで書いた。 小宮山監督にとっては“父”と言ってもいい徳武氏の思いも背負って「秋日本一」へ向かってタクトを振ることになる。 徳武氏は、野球をこよなく愛した。「早慶6連戦」でプレーした生き字引として、ことあるたびに64年前の経験談を発信していた。そして「六大学が盛り上がってほしい」と、来年に迎える連盟創設100年を心待ちにしていた。叶わなかったのは、無念に違いない。ただ、徳武氏が生前に伝え続けた早稲田大学野球部の神髄は、しっかりと後輩へつながれた。天国でも母校・早大の活躍を、定位置の神宮内野スタンドで鋭い目で見守る。合掌。 文=岡本朋祐
週刊ベースボール