発想変え偶然の大発見「半導体製造に不可欠の結晶」…大阪大・森勇介教授
半導体の製造で欠かせない人工の結晶がある。約30年前、大阪大の森勇介教授(58)が発見した。「ひらめきと勘が生んだ偶然の産物」という結晶は現在、ウイルスよりも小さな異物を見つける半導体の検査装置などに使われる。世界の半導体企業が認めた結晶は、本当に偶然の産物だったのだろうか。誕生までを探った。(藤沢一紀、松田俊輔)
非常識?予想もしなかった成果に
「混ぜたら誰でもできたはずだけど、誰もやらなかった」。当時予想もしなかった成果をこう振り返る。
1993年、光を強い紫外線レーザーに変換する人工結晶の作製に成功。結晶は「CLBO結晶」と呼ばれ、セシウム(Cs)、リチウム(Li)、ホウ素(B)、酸素(O)の化合物からなる。
当時助手としてレーザー装置開発の研究室に所属。半導体の製造で使われる短い波長(193~266ナノ・メートル)の紫外線レーザーに適した結晶作りを任された。
レーザー研究の世界では化合物を安直に混ぜて結晶を作るやり方は、非常識と考えられていた。ところが森さんには、大学院時代に研究していた半導体の分野で様々な物質を混ぜて性質を変えてみる「混晶」という発想が身についていた。
この考え方でリチウムやホウ素の化合物「LBO」とセシウムやホウ素の化合物「CBO」に着目した。
二つは絶対に混ざらないと考えられていたが、構成する各元素の原子数が同じことから直感的に「混ざる」と思った。「学生の卒業論文になるぐらいの成果は出るだろう」との軽い気持ちで、2種類の化合物を含んだ粉を混ぜたところ、データベースにもない新しい化合物ができた。結晶化して光の屈折率などを詳しく調べた結果、紫外線レーザーを生み出す材料と確認。CLBO結晶と名付けた。
ひらめいたのは入浴中
しかし、割れるなどの欠陥を周囲から指摘された。
結晶の高品質化を模索していたある日、入浴中に湯をかき混ぜた時、「通常結晶は静かな状態で大きくするが、液体の流れは結晶にもよいのではないか」とひらめいた。