悩むのはダメなこと? “優等生から転落した人”にカウンセラーが伝えた言葉
悩むって、そもそも悪いこと?
【K】さっそくですが、谷本さんが、これまで10代の人をはじめ、多くの人の悩みや不安を聞いてきて、なにか感じることはありますか? 【谷本】そもそも悩むことを、「よくないこと」「悪いこと」と考えている人が多いですね。悩んでいる自分は、ダメだとか、弱いとか、なさけないとか。 【K】高校生のときの私も、そう思っていました。大人になった今でも、落ちこむようなことがあると、つい自分を責めてしまうときがあります......。 【谷本】私は、そんなふうに自分を責めてしまう人とお話しする機会があると、「悩むって実はすごいことで、とても前向きな姿勢でもあるんですよ」とお伝えしています。 【K】悩むことが前向き......? 【谷本】はい。私たちはつい、悩むことをマイナスなことと考えがちですが、そうとも言えないんです。たとえば、Kさんは、高校生のとき、どんなことに悩んでいましたか? 【K】「授業についていけない自分は、もうダメだ」とか「いつもやる気が出ない自分は、なんて弱いんだろう」とか......ですかね。 【谷本】たしかに、しんどい悩みですね。ただ、たとえば「もっと授業をスムーズに理解したい」とか「もっとやる気のある人になりたい」なんて言いかえることもできますよね。同じことを言っているのに、今度は前向きな印象を受けませんか? 【K】えっ......。 【谷本】ちょっと急すぎましたね。ただ、今、お話ししたように、悩むことは「よりよい自分になりたい」という気持ちの裏返しでもあるんです。「自分は完璧だ」とか「なおすところはない」なんて考えている人は、そもそも悩みませんからね。悩みがあるからこそ人は成長していくんだと私は思っています。
悩みは成長のスパイス
【K】でも、いくつになっても同じようなことでぐるぐる悩んで、大人になった今でも「まったく成長していないな......」と思うときがあります。 【谷本】そんなときは、ちょっと過去を振り返ってみましょうか。高校生だったときのことを思い出してみてください。当時、悩んでいたこと、たとえば勉強やスポーツ、友達のことで、今も同じように苦しんでいるでしょうか? 【K】(目をつむって思い出しながら)いえ、同じでは......。 【谷本】ほかにも、たとえば、今から5年前の春に、どんなことで悩んでいたか、はっきりと思い出せますか? 【K】5年前の春......。なにかあったかな......。 【谷本】当時も、悩みはあったはずなんです。自分のことって、なかなかつかみにくいですが、悩みが少しずつ変わったり、いつのまにか気にならなくなったりしていますよね。 【K】ずっとなにかに悩んではいますが、たしかに、気づいたら、悩みの中身が変わっていたり、当時は大きな悩みでも今は消えたりしているような......。 【谷本】それは、そのときどきのKさんが、問題を解決したり、状況を変えたり、耐えてやりすごしたりしてきたからなんです。そうやって、今日までなんとかやってこられたのは、「Kさんが、日々、成長してきたから」とも言えるんじゃないでしょうか。 【K】そんなふうに考えたことはなかったです......。 【谷本】これまでの人生を少し長い期間で振り返ってみると、みんなそれぞれ、いろいろな事情や制約があるなかで、完璧ではないにしても、毎日を一生懸命に生きていることがわかります。「悩みは成長のスパイス」なんて考えられると、ただしんどいだけの目の前の景色が変わって見えるかもしれませんね。 【K】たしかに、そう考えられたらラクですね......。 【谷本】今の世の中は、数字や結果が大きな力を持っています。それらの数値だけで人が判断されてしまうことも多いですよね。なにも結果を出せていない自分には価値がないと考えたり、成績だけにとらわれて自分を追いこみすぎたり、できない自分とできる周囲を比べて苦しんだりしている人も少なくないはずです。 【K】インターネットやSNSを開けば、自分よりすごい人が、いくらでも出てきますからね。人と比べて、あせる気持ちもわかります。 【谷本】こんな時代だからこそ、自分のなかの少しずつ変わっていっている部分、ちょっと成長している部分にも目を向けて、自分をほめてあげられるといいかもしれませんね。 【K】自分をほめる......。でも、どうやって......。 【谷本】それじゃあ次回は、自分をほめることについて学んでいきましょう。 【K】は、はい......。 【谷本惠美(たにもと えみ)】 1962年、大阪府生まれ。1991年、カウンセリングルーム「おーぷんざはーと」を設立。カウンセラーとして33年、スクールカウンセラーとして18年の経験がある。得意分野は、家族・子育て・職場の問題。特に、モラルハラスメント問題に力を入れて取り組み、理解を深める活動や被害者支援にたずさわる。著書に『カウンセラーが語るモラルハラスメント』(晶文社)などがある。
谷本惠美(一般社団法人日本産業カウンセラー協会認定産業カウンセラー)