映画『画家ボナール ピエールとマルト』:フランス絵画の巨匠が見た景色、愛した女性
歴史上の人物を演じる苦労
―ボナール役は最初からヴァンサン・マケーニュに決まっていたのですか? プロヴォ 実は以前から、ヴァンサンとは別の企画があったんです。それも画家の話でしたが、なかなか実現しなかった。ボナールの話が持ち上がって、「これだ!」と思いました。ヴァンサンでいけると感じたんです。プロデューサーたちは無理だと言いました。「ボナールはあんなにぽっちゃりしてない」って(笑)。ダイエットさせるから大丈夫、彼ならちゃんと仕事をしてくれると説得したんです。 ―ダイエット、どうでしたか? マケーニュ ちゃんと仕事をしましたよ(笑)。さらに苦行だったのは、老けるメイクでした。顔にいろいろ取り付けて皮膚のたるみやしわを出すので、その分まで細くする必要があったんです。 プロヴォ 老年期の場面では、メイクアップに5時間かけました。VFX(ビジュアル・エフェクツ)を使ったら、この映画の持ち味が壊れてしまいますからね。 マケーニュ 座ったまま4、5時間過ごすのは楽じゃないけど、それで役に入り込むことができました。 プロヴォ いやいや、これは大変なことですよ。朝8時に撮影するとしたら、4時にはメイクを始めないといけないからね。 マケーニュ 老け役も、画家も、歴史上の人物を演じたのも初めてだったので、自分にとって新しい挑戦でした。 ―絵を描くシーンもありますね。 マケーニュ 母が画家だったのもあって、絵を描くのは子どもの頃から好きでした。有名な絵画を模写していました。 プロヴォ ほんと? ボナールを? キャンバスに描いていたの? マケーニュ いや、ボナールではなかったけど、ちゃんとキャンバスに描きましたよ。部屋に飾るにはその方が上品でしょ(笑)。だから今回もボナールの描き方を学ぶのは楽しかった。映画で使う複製画を描いたエディット・ボドランに、デッサンの仕方や、絵の具の塗り方を習ったんです。 エディット・ボドランはセザール賞7冠に輝いたプロヴォ監督作『セラフィーヌの庭』(08)で主人公セラフィーヌ・ルイの複製画を担当した画家だ。『永遠の門 ゴッホの見た未来』(18/ジュリアン・シュナーベル監督)でもゴッホの複製画を手掛けている。 プロヴォ エディットには150点もの絵を描いてもらいました。描いている途中の、さまざまな段階の絵が必要だったからです。ボナールの絵画は、ゴッホやセラフィンよりもずっと複雑なんです。あのタッチを再現するのはかなり難しかったと思います。