村上春樹が新訳した戦争絵本 翻訳オファーの理由を編集者に聞く
7月、ロシアによるウクライナの軍事侵攻が始まってから500日が経過しました。戦争が終わらない状況の中、“戦争を繰り返してはいけない”というメッセージをもつ絵本『世界で最後の花』(ポプラ社)が日本で出版されました。この本は日本で絶版になっていましたが、6月に作家・村上春樹さんの新訳で復刊。編集者に復刊に込めた思いや、村上春樹さんに翻訳をオファーした理由を聞きました。 【画像】村上春樹、6年ぶり長編小説が上半期ランキングで3冠達成
■第二次世界大戦開戦時に生まれた絵本
『世界で最後の花』は1939年の第二次世界大戦開戦時、雑誌の編集者や小説家、漫画家などで活躍したジェームズ・サーバーさんによって描かれた絵本です。 「みなさんもごぞんじのように、第十二次世界大戦があり」(『世界で最後の花』より) 物語の舞台は、第十二次世界大戦が起きた世界。文明は破壊され、町も都市も森も林も消え去ります。残された人間たちは、ただそのへんに座りこむだけの存在になってしまいました。そんな世界で…。
「ある日、それまで花をいちども見たことのなかった若い娘が、たまたま世界に残った最後の花を目にしました」(『世界で最後の花』より) その花をひとりの若い男と一緒に育てはじめます。すると世界に愛が再び生まれ、町や都市や村、歌などの娯楽も戻ってきます。しかし、兵隊たちも戻ってきて…。
「まもなく世界中が再び戦争になりました」(『世界で最後の花』より) 「なぜ人間は戦争を繰り返すのか?」をテーマにしたこの絵本。1983年に『そして、一輪の花のほかは…』というタイトルで日本で出版されましたが、その後、絶版に。今回、話を聞いた編集担当の辻敦さんは、自身の戦争への考え方の変化に気づき、出版に向けて動いたといいます。
■きっかけはウクライナ侵攻 時間がたって気づいた「あんなに絶望したのに…」
――どんな思いから、この絵本の復刊に向けて動いたのでしょうか? ウクライナ侵攻が起きてから3か月経ったタイミングでこの本の復刊の話をいただきました。この本を初めて読んだとき、戦争の悲惨さがものすごく伝わってきました。ウクライナ侵攻が起きたことをニュースで知ったとき、家のソファの上から動けなくなってしまったんです。戦争が起きてしまったことにはっきりとショックを受けました。それから新聞とかネットニュースとかも逐一チェックするようになりました。