村上春樹が新訳した戦争絵本 翻訳オファーの理由を編集者に聞く
■村上春樹へ手紙で伝えた復刊への思い
――村上春樹さんへ「訳してほしい」という思いを、どう伝えたのでしょうか? 手紙を(英語版の)原書と一緒に送りました。そもそも読んでくれるかどうかさえわからないし、届くかどうかさえも定かじゃなかったです。でも気持ちをしっかり込めなきゃ意味はないので、全身全霊で書きました。 ――どんな思いを手紙に込めたのでしょうか? 大まかですけど、今お答えしたようなことを書きました。ウクライナ侵攻が起きて、僕はショックを受けたのに戦争が起きていることに慣れてしまっていることに気づいて、それが恐ろしいと思ったこと。『おおきな木』のことも書きました。村上さんの翻訳が僕は好きだし、「翻訳ってすごい!」と決定的に印象に残った出来事だったので、そういうことを踏まえてお伝えしました。 ――引き受けてくれるとわかったときは? めちゃくちゃうれしかったです! 「引き受けてくださった」ことを上司に伝えたり、部内で共有したりするんですが、みんなとても驚いていましたね。そこで改めて、すごく幸運なことだったんだなって思いました。
■戦争体験者から届いた感想に「感動」
――『世界で最後の花』を読んだ方から、どんな声が届いていますか? 戦争を経験した人から読者はがきが結構来ているんです。「1938年生まれの私にはとてもよくわかり、その(絵本の)通りでした。戦争ほどバカなものはない。同年代の友達にも見せてあげます」(85歳・女性)など、80歳以上の方から多くの読者はがきが届いています。戦争を実際に体験した人から共感の声をいただいて感動しました。 ――『世界で最後の花』は絵本だからこそ、幅広い世代にメッセージを伝えられるのではないでしょうか。 子供と一緒にコミュニケーションを取りながら読むことが多いと思います。戦争という日常の話題にちょっとのぼりづらいようなことも、『世界で最後の花』を通して親子で話す機会になるのはすごくいいなと思います。例えば“おばあちゃん→娘→孫”の三世代で同じ絵本の話ができるのは、絵本の力だなと思います。なので、ジェームズ・サーバ―が絵本の形で『世界で最後の花』を残したことは、意義があることなんじゃないかなと思います。戦争について少しでも考えるきっかけになってほしいというのが、僕の一番の願いです。