農業県に不安広がるTPP 「2つの影響調査」に議会が白熱
県議会で議員が追及
この互いにかけ離れた調査結果に、開会中の県議会でも戸惑いが広がり、2月24日の代表質問では「県農協の調査結果と県の調査の影響額はあまりにも大きな差だ。なぜなのか」と議員が疑問を呈し、県側は「県の試算は国の調査に準じたものだが、県農協の調査は前提条件などが異なるため」などと説明。さらに県民の前に「2本立て」の調査結果が露呈したことについて「このような調査を県農協と協議もしないで行ったのはなぜか」と議員が質問。「県農協とはさまざまな連絡を取り、力を合わせていきたい」と県側が苦しい答弁をする場面もありました。 議員側は十分納得したとは言えず、翌25日の一般質問でもほかの議員が「2つの調査のあまりにも大きな差に、多くの農業者は不安を持っている。今後、県はどのような対策を講じるのか」と追及。県側は「米などのブランド化、果樹では独自の品種の開発・ブランド化に取り組んでいきたい。将来に向け対策を進めたい」などと答えましたが、県行政や議会に広がるTPP不安は否定できない状況です。
地元の農家の思いは
一方、農業の現場では不安を抱きながらも将来を模索する農家がいます。長野県小布施町(おぶせまち)で、ブドウ、リンゴ、モモを生産する果樹農家の男性(64)は、「中国や台湾などで進んでいるリンゴなどの果樹栽培はまだ品質面で日本に追いついていない」としながらも、特に中国ではその栽培規模が巨大で「見渡す限りのリンゴ畑には驚く」と言います。 規模だけでなく、問題は品質。今のところ日本産のリンゴなど農産物は海外の評価も高く競争力は十分あると言います。ただ、品質の向上は海外の農業者も努力するはず。「日本の品質が10だとして、5ぐらいまで追いつかれても大丈夫です。問題は相手のレベルが7~8まで上がってくるとこれはきついですよ」と言います。 TPP時代を目前にこうした農家への支援態勢が問われてきます。県の研究機関などによる新品種開発などと併せて農家の体力強化策など各面からの対策も課題で、新たな事業を展開する場合の融資制度や金融機関の支援もカギになります。小布施町に畑を持つ長野市の農業女性(62)は「最近、一般の有力銀行が農業者の活動や農業に関心を持ち始めています。これは期待していい動き」と指摘します。TPP時代に向けて行政の補助金などの対策にとどまらず、新たな農業経済の枠組みづくりが進めば「強い農業」の目標に向けて前進できる、と話していました。
------------------------------------- ■高越良一(たかごしりょういち) 信濃毎日新聞記者、長野市民新聞編集者を経てライターに。記者歴は報道部、支社局、朝夕刊デスクなど。この間2年地元テレビでニュース解説