湊かなえが「イヤミス」と言われるなかで自らに課しているもの
湊)でも、子どもも大学4年生になり、成人もしているし、もう15周年だし、もう1回やりたいことをやろうと、ブレーキをかけずに自転車で坂道を「ワーッ」と下っていくような話を書いてみたいと思ったのです。『人間標本』というタイトルも、少し江戸川乱歩を彷彿とさせるおどろおどろしいものにしました。 黒木)『黒蜥蜴』を思い出してしまいました。インタビューでは「イヤミス(読後、イヤな気持ちになるミステリー)ファンの皆さん、お待たせしましたという思いだ」と言われています。イヤミスと言えば、真梨幸子さんやまさきとしかさん、沼田まほかるさんなど、いろいろな方がいらっしゃいますよね。でも、私は『人間標本』をイヤミスとしては読みませんでした。確かに、「ここから先はそのように読めるかな」というところはあるのですが、最後の2ページは泣きました。 湊)ありがとうございます。 黒木)何となく「こうなっていくのだろうな」と展開を予想しても少し裏切られ、また予想すると少し裏切られる。そして、最後にまた裏切られて……。少し辛かったのですが、人を思いやる心が詰まった本だな、と受け取りました。 湊)「読後感が悪い」と言われながらも、自分のなかで1つルールを課しています。悪いことをした人が高笑いして終わるような読後感の悪さではなく、また、傷付けようとか陥れようとしているわけでもなく、むしろ相手のことを思っていたり、大切な人なのにボタンの掛け違いで取り返しのつかないことが起きてしまう……そのようなことを意識しています。
湊かなえ(みなと・かなえ)/小説家 ■1973(昭和48)年、広島県生まれ。 ■2007(平成19)年、「聖職者」で小説推理新人賞を受賞。 ■2008年、「聖職者」を収録した『告白』が「週刊文春ミステリーベスト10」で国内部門第1位に選出され、2009年には本屋大賞を受賞した。 ■2012年「望郷、海の星」で日本推理作家協会賞短編部門、2016年『ユートピア』で山本周五郎賞を受賞。2018年『贖罪』がエドガー賞ベスト・ペーパーバック・オリジナル部門の候補となる。 ■その他の著書に『Nのために』『母性』『高校入試』『絶唱』『リバース』『未来』『ブロードキャスト』『落日』『カケラ』『ドキュメント』『残照の頂』など。 ■2023年12月13日、KADOKAWAから15周年記念書下ろし作品『人間標本』が出版。