船を降りた途端に歓声が!「自分の任務」と心得ているようにお出迎えしてくれる石巻・田代島の猫たち。今や島は世界から猫好きの集まる<聖地>に
東日本大震災で大きな被害を受けた宮城県石巻市。その離島である田代島が今、世界中から観光客を集めている。通称、キャットアイランド(猫島)。猫好きの外国人が「日本を訪れたら必ず立ち寄りたい」と口をそろえるほどの<聖地>となっているのだ(取材・文=塩坂佳子 撮影=千葉裕幸) 【写真】小型漁船が並ぶ岸壁を歩き回る猫たち。年老いた漁師の後をついて回る姿も * * * * * * * ◆船を降りると猫たちがお出迎え 田代島に向かう「網地島(あじしま)ライン」の発着所は、旧北上川が太平洋に流れ出る河口付近にある。以前は車でアクセスする地元民ご用達の門脇(かどのわき)発着所のみだったが、JR石巻駅から徒歩15分程度の中央発着所が新設され、グンと利便性が上がった。 船は日に3便。田代島から先は、かつて真っ白な砂浜が「東北のハワイ」と謳われた網地島、牡鹿半島の先端に位置する捕鯨で有名な鮎川港なども巡る。観光客だけでなく、島民や離島で働く人々の唯一の足となっている。
◆お出迎えが自分たちの任務と心得ているかのよう 「See Cat(猫を見よ)」という名の高速船に乗り込み、コバルトブルーの太平洋上を進むこと40分。船を降りるとさっそく、あちらこちらで黄色い歓声が聞こえ始めた。人々の足元には猫。スマホのカメラを向けられても、頭や体を触られても、まったく臆する気配がない。 それどころか、地べたに体をこすりつけゴロンゴロンと寝転がってみせたり、膝に乗ってこようとするものまで。港でのお出迎えが自分たちの任務と心得ているかのようだ。 小型漁船が並ぶ岸壁では、年老いた漁師の後をついて回る姿もある。大漁の分け前か、放り投げられた魚を素早くくわえて走り去っていく。そんな人と猫との原風景に出会えるのも、島探訪の醍醐味のひとつだ。
◆島の守り神として大切にされる猫 猫島の歴史は江戸時代、養蚕業が盛んだったこの島に、繭を狙うネズミ対策として猫が持ち込まれたことから始まった。明治時代に入り、大型の定置網を使った漁業が発展すると、漁師たちは、分け前にあずかろうと集まる猫たちの仕草を見て、明日の天気や漁の結果を占うようになったという。 そしていつしか、猫は大漁を招き、海難事故を防ぐ島の守り神として大切に扱われるようになった。人と猫の絆の深さは、島の営みから生まれた共生の歴史そのものだ。 現在も、猫たちは島民から餌をもらいながら、半野良状態で暮らしている。狭い人家に閉じ込められることなく、飢えることもない最高の人生、ならぬニャン生! その自由な暮らしぶりがドキュメンタリー映画やテレビ番組などで取り上げられ、田代島は「猫の島」として知られるようになった。 SNSが発達した10年ほど前からは、海外からも多くの観光客が訪れるようになっている。 (撮影=千葉裕幸)
塩坂佳子