久留米市の呉服店での窃盗 逮捕されたのは安倍元総理が絶賛した「KIMONOプロジェクト」関係者だった
藍染めにかすり模様の美しさが特長の久留米絣(くるめかすり)は、国の重要無形文化財だ。その主要生産地の福岡・久留米市で、約220万円相当の着物が盗まれる事件が起きた。 【写真を見る】220万円相当の着物を盗んだ一般社団法人理事の手嶋容疑者
「8月20日、男女二人が、久留米署に窃盗容疑で逮捕されました」 と、社会部記者が振り返る。捕まったのは、神奈川県横浜市に住むアルバイトの手嶋信道容疑者(57)と、同じく横浜市の職業不詳、中村久絵容疑者(45)。 「昨年9月12日の午後、二人は共謀して市内の呉服店から着物や書類、計26点を盗んだとされます。当時、店側が“裁判でもめている相手が勝手に店に入り込んでうろうろしている”旨を通報。駆け付けた久留米署員が二人の持ち物を調べたところ、店の取引記録などの書類が出てきました」 呉服店の防犯カメラには二人が着物を運び出す姿も映っていたが、 「取調べでは、手嶋容疑者が“そのようなことは知らないし答えたくもない”と否認し、中村容疑者は黙秘している。肝心の着物の行方は分かっていません」 狙われた着物は久留米絣ではなく、事件の背後に渦巻く確執を示す代物だった。
“ぜひ見てもらいたい”
実は、手嶋容疑者はウーバーイーツ配達員の傍ら、東京都渋谷区にある一般社団法人「イマジンワンワールド」の代表理事という肩書を持つ。ちなみに中村容疑者は「和奏(わかな)スミレ」の通名でそろばん講師を務め、同法人の理事にも就いている。先の記者が続けるには、 「イマジンワンワールドは東京五輪・パラリンピックに向け、世界213の国や地域をイメージした着物を作る『KIMONOプロジェクト』を手がけた法人。プロジェクトは、2014年に呉服店の高倉慶応(よしまさ)社長が“着物の美しさと職人の高度な技術を国内外に示したい”とスタートさせ、のちに法人も創設しました」 東京五輪の開会式でのお披露目を目標に掲げ、 「社長は苦労を重ねて九州経済連合会などから寄付を募りました。そして19年、総額約4億円超をかけて213の着物が完成。国内外の多くのイベントで披露する機会も得たのです」 同年8月、横浜市で開かれたアフリカ開発会議では、 「着物を披露するショーも開催され、安倍晋三首相は“あれこそおもてなしの心。五輪やパラリンピックでも、ぜひ見てもらいたいね”と絶賛していました。ですが大会組織委員会が式典全体の演出を検討した末、不採用に。19年末のことでした」