『オッペンハイマー』この映画が描く恐ろしいものは「人間の心」と「権力の闇」。ノーベルはその名を冠した賞まで運営されているのに
1989年に漫画家デビュー、その後、膠原病と闘いながら、作家・歌手・画家としても活動しているさかもと未明さんは、子どもの頃から大の映画好き。古今東西のさまざまな作品について、愛をこめて語りつくします!(写真・イラスト◎筆者) 【漫画】核実験は世界を滅ぼすリスクを抱えて… * * * * * * * ◆観客に一瞬の気の緩みも許さない 「プロメテウスは人間に火を与えた。その罰として永劫の苦しみを与えられた」 ギリシア神話の引用から始まるこの一文と、オッペンハイマーの人生解釈を凝縮し、IMAX社の最新フィルムで撮影された激しい炎の映像のオープニングは、たちまち私たちを映画の中に没入させてしまう。 瞬間、ヴィスコンティの『地獄に堕ちた勇者ども』、のオープニングを連想した。不朽の名作だが、立体感や迫力で言えばすでに「古典」なのだと思い知る。『オッペンハイマー』で、映画界は確かに新しい一歩を踏み出した! 原爆の父である科学者「オッペンハイマー」をプロメテウスに例えたこの作品は、実に見事なシナリオと構成、俳優、そして技術で成り立ち、観客に一瞬の気の緩みも許さない。 一時期のハリウッドは技術競争に溺れ、内容を失った。故に私はハリウッド映画を敬遠してきたが、最近のハリウッド、いいじゃないか!! 本作の技術は、見事な人間描写を掘り下げるために正しく活かされている。
◆アインシュタインにも認められる知の巨人 さて、オッペンハイマーはアインシュタインにも認められる知の巨人であり、第2次世界大戦中に米ソが競うようにして進めた原子力研究の頂点を極めた人物だ。科学者としてあらゆる栄誉に浴し、運命に導かれるようにアメリカ政府の進める原子力開発責任者に。 砂漠の中に実験場の街を1つ造って、原爆実験をした。広島と長崎に原爆が投下されたのは、初の原爆実験が行われて間もなくだ。 時の大統領トルーマンはいう。 「原爆を落とすのが、日本を降伏させ、戦争を終わらせる唯一の手段だ」と。
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