『オッペンハイマー』この映画が描く恐ろしいものは「人間の心」と「権力の闇」。ノーベルはその名を冠した賞まで運営されているのに
◆日本人は、総じてこの映画を直視すべきだ この映画は被爆地の惨禍を描写することがテーマではないため、現地被害の描写は決して多くない。あくまでもアメリカの科学者が感じた「ヒロシマ・ナガサキ」だが、原爆の威力の恐ろしさ、被害の悲惨さと、オッペンハイマーの罪の意識は十分描写されている。 実験前の計算式だけだと、「CHAIN REACTION(連鎖反応)」が止まらなかった場合、世界が火の海になる可能性があるとさえ指摘される。「爆発で終わるのか、世界が滅びるのか」という恐怖で実験を迷うオッペンハイマー。それでも実験は断行された。「ソ連より先に原爆を作らねばならない」という、アメリカ政府の要求が勝ったのだ。 実験は成功。そして人間は、「核の時代」という新しくも恐ろしい時代に踏み込んでいく。その様が実に綿密な取材に基づき、リアルなカメラワークで描写されるので、私たちは実際にその場にいるような感覚に襲われる。 この手腕には脱帽するほかはなく、こういった映画作りが可能なのは常にアメリカの機密情報公開が保証されている所以だろう。また、改めて広島と長崎の被害の甚大さ、何世代にも渡る被害者の苦しみを痛感した。私たち日本人は、総じてこの映画を直視すべきだ。
◆非核化は困難を極める 世界が第3次世界大戦の様相を帯びている現在、「核廃絶」がなされれば一番良いが、事実上の核保有国が国連の常任理事であり、第2次大戦後の「PAX AMERICANA」が、現実にはアメリカの「核の力」によってもたらされていたのも現実だ。 しかしそれが冷戦を生み出し、現在では国連もロシアの暴走を止めることができない。もしアメリカやイギリス、フランスが核放棄をすれば、ロシア・中国をはじめ他の保有国の暴走は加速するだろう。故に非核化は困難を極める。 かといって、原爆や水爆が実戦で使われることが在ってはならない。何世代に渡りその土地に人間が住めなくなるような核兵器は格別なのだ。私たち日本人は被爆国の一員として、もっと「ヒロシマ・ナガサキ」の惨禍を伝えるべきだろう。 そしてその時、70年に及ぶ核アレルギーを乗り越え、「議論することさえタブー」という空気を乗り越えなくてはいけない。なぜダメなのかをロジカルに立証しつつ、平和維持の為のよりよいシステムを提案すべきだ。そして核廃棄物の処理や、放射能汚染の除去の研究も進めるべきだろう。
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