【マレーシア】EV市場に供給過剰の兆し 中国勢が相次ぎ参入、国産車も
マレーシアの電気自動車(EV)市場に供給過剰の兆しが見えている。2024年1~9月の国内における新車販売台数にEVが占める割合は2%程度にとどまっている一方で、中国勢の市場参入やモデル投入が相次いでいる。マレーシア政府は、価格が10万リンギ(約340万円)を下回る国産EVの生産を支援する方針を打ち出しており、さらなる競争激化が見込まれる。 投資貿易産業省のリウ・チントン副大臣が27日、連邦議会下院での答弁で明らかにしたところによると、24年1~9月の国内における電動車の販売台数は3万3,319台で、新車販売全体の5.1%を占めた。マレーシア自動車協会(MAA)が発表した3万2,868台とやや乖離(かいり)があるが、政府の統計には、自動車協会に加盟していないメーカーの販売台数も含まれているとみられる。 自動車協会によると、1~9月に販売された電動車のうち、ハイブリッド車(HV)が2万2,913台。EVは9,955台で、同期の新車販売全体に占める割合はわずか1.7%にとどまった。 国内のEV市場は小さい一方で、中国のEVメーカーと販売代理店契約を結ぶ地場企業によるモデルの投入が相次いでいる。中国のEV大手、比亜迪(BYD)の販売代理店を務める地場コングロマリット(複合企業)サイムダービーの子会社サイムダービー・モーターズ(SDM)は先月、マレーシアで4モデル目となる多目的車(MPV)「M6」を発売。今月には、スポーツタイプ多目的車(SUV)「海獅(シーライオン)7」を発売した。 このほか、奇瑞汽車(チェリー)、長城汽車(GWM)、浙江合衆新能源汽車(合衆汽車)、浙江零ホウ科技(ホウ=足へんに包、零ホウ汽車、リープモーター)などもマレーシア市場に進出している。 マレーシアでマツダ車の販売などを手がけるベルマツ・オートは25日、中国の重慶長安汽車と「ディーパル(Deepal)」ブランドのEVの販売代理店契約を締結したと発表した。コンパクトSUV「S05」と中型SUV「S07」の投入を計画しているという。ベルマツは今年3月、中国の新興EVメーカーの広州小鵬汽車科技(Xpeng)とも販売代理店契約を締結した。 ベルマツのEV販売拡大には、厳しい見方もある。地場調査会社クナンガ・リサーチは「マレーシアのEV市場は相次ぐモデル投入により飽和状態にある」と指摘。ベルマツのディーパルブランドの販売について、「発売から1年目の販売台数は良くても500台程度にとどまる」との見方を示した。クナンガによると、販売価格はS05が10万~15万リンギ、S07が15万~20万リンギになる見通しという。 地場金融大手RHBバンクも厳しい見方を示す。ベルマツが今年8月にXpengのEVを発売して以来、累計販売台数は150台にとどまっていると説明。「マレーシアの新車販売台数に占めるEVの割合は2%程度と市場は依然として小さく、ベルマツがディーパルブランドのEVを売り出したところで、ベルマツの収益に大きく寄与することはない」と予想した。 ■国産EVで競争激化か 中国勢が市場を席巻する一方、政府は国内の自動車市場でトップシェアを握る国民車メーカー、プロドゥアによるEVの生産を支援する方針を示している。国内で販売されているEVの大半が15万リンギを超えるとされる中、10万リンギ以下の国産EVを生産・販売し、EVの普及を促進したい考えだ。 国民車メーカーでは、自動車市場シェア2位のプロトン・ホールディングスが、同社の株主である中国の自動車大手の浙江吉利控股集団と独メルセデス・ベンツが折半出資する智馬達汽車(スマート・オートモービル)が製造する「スマート」ブランドのEVを販売。年内には、自社ブランド「e. MAS(イーマス)」のEVの発売も予定しており、EV市場でさらなる競争激化が見込まれる。