「バンタム級最強は誰なのか?」長谷川穂積に聞く“日本人王者のガチ評価”…堤聖也を絶賛「結局ね、ボクシングって覚悟が強いほうが勝つんです」
「結局ね、ボクシングって覚悟が強いほうが勝つんです」
そして長谷川さんは「本人はあまり言わないですけど、穴口選手の件も大きかったんじゃないかと思います」と続けた。 昨年12月、堤と日本タイトルマッチで激闘を繰り広げた穴口一輝選手は試合後に意識不明となり、容体が回復しないまま2月に息を引き取った。重い十字架を背負った堤の心中は察するに余りある。長谷川さんは堤の鬼気迫るファイトを目の当たりにし、リングで起きた不幸を思い出さずにはいられなかったのだ。 「結局ね、ボクシングって極論すると覚悟が強いほうが勝つんですよ。もちろん負ける場合もありますよ。でも、とんでもない覚悟を持っている人間を崩すことはできない。そんな人間は、下がらせることさえ難しい。僕はね、母親が亡くなった1カ月後の試合でそれを経験してるんです。負ければ死、というぐらいのつもりでした。初めて試合を『戦争や』と思いました。最初で最後ですね、あんな覚悟を持てたのは」 長谷川さんの母・裕美子さんは癌を患い、長い闘病生活を経て2010年10月24日、55歳の若さでこの世を去った。およそ1カ月後の11月26日、長谷川さんは失意の中、WBCフェザー級王座決定戦のリングに上がった。一気に2階級上げて即世界戦というビッグチャレンジだったが、長谷川さんはフアン・カルロス・ブルゴス(メキシコ)をフルラウンド判定で下し、2階級制覇を達成したのである。 「僕が負けたら母親の死がいいストーリーにならんと思いました。だから勝つしかない。勝手に覚悟ができた。ああいう気持ちは作ろうと思って作れるものじゃないと僕は思っています。あのときの自分のような覚悟、気迫を、堤選手から感じたんです」
井上拓真にとっても“成長できた試合”だった
一方の拓真はこの試合に勝てば中谷と統一戦というレールが敷かれていた。バンタム級で最も評価の高いWBC王者に勝利すれば、追いかけ続けてきた偉大な兄、尚弥に一歩近づくことができる。堤戦をクリアすればそのチャンスを手にできるのだ。拓真のモチベーションは高く、覚悟だって十分にあった。 「たぶん堤選手のやりにくさ、気迫は拓真選手の予想を超えていたんじゃないですかね。拓真選手はさばけると思っていたと思うんです。でも、さばけなかった。堤選手のしつこいボクシングに巻き込まれてしまった」 拓真は持ち前の技術を発揮してベルトを死守しようとした。堤の気迫に為す術なくのみ込まれたわけではない。10ラウンドにダウンを喫した直後の11ラウンド、長谷川さんは拓真の姿に目を見張った。 「拓真選手は11ラウンド、覚悟を決めて前にいったんですよ。カーンって鳴ったらパンチを思い切り振って、殴り合いじゃないですけど荒々しく攻めていった。あれ、自分のボクシングを捨てたんです。僕にはそう見えました。ああいうことができたということは、拓真選手にとっても、一つ成長できた試合だったんじゃないかと思うんです。ほんと、いい試合でしたね」 拓真と中谷による統一戦プランはひとまず消滅したが、堤の登場でバンタム級戦線はさらに活況を呈してきたと言えるだろう。後編ではこの階級をリードする中谷、そして期待のホープ、那須川に目を向けていきたい。 <後編へ続く>
(「ボクシング拳坤一擲」渋谷淳 = 文)
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