ラグビー・南アフリカ代表主将の離婚 「レインボーネーション」に走った衝撃
【ベテラン記者コラム】南アフリカが揺れている。といっても政治的な話ではない。2大会続けてW杯を制したラグビーの代表チームのことでもない。いや、ある意味では政治的でもあり、ラグビーにおおいに関わりもある。黒人として初めて南アフリカ代表主将を務めているFLシヤ・コリシ(33)の離婚である。 【写真】2019年W杯でトロフィーを掲げて優勝を喜ぶシヤ・コリシ(中央)ら南アフリカ代表 「この決断は、愛と尊敬、そしてこれが2人にとって最善の道であるという理解から生まれたものである」 10月22日、コリシと妻・レイチェルさん(34)がインスタグラムで離婚を発表した。すると、南アフリカ国内に衝撃が広がった。ファンの一部は「この悲しいニュースに打ちのめされている。国は明日、国民に休暇をとらせないといけない」とX(旧ツイッター)に投稿したほどだ。 レイチェルさんは白人で、女性の社会地位向上や人権問題などに取り組む活動家の顔も持つ。4年の交際を経て、2016年に2人は結婚。2人の子供に恵まれ、コリシの母親が亡くなったあとには、コリシの妹と弟を養子にしている。悪名高かったアパルトヘイト(人種隔離政策)は1994年に廃止されたが、「レインボーネーション」とも形容される多民族国家である南アフリカは民主化から30年たっても、人種間の緊張が根強く残る。そんな国内で、肌の色が違う2人は民衆の希望、象徴的な存在だった。国が2つに割れた。この離婚で南アフリカ国民が受けた感覚としては、こんなところだったのかもしれない。われわれ日本人には想像できない境地だ。 南アフリカは11月、英国に遠征し、スコットランド、イングランド、ウェールズとテストマッチを行う。そのスコッド34人には当然、コリシも含まれ、今回も主将としてチームを統率する。フィジカルを前面に押し出すFW、躍動感満点にボールを動かすBK、そして堅固なディフェンスと、南アフリカらしいラグビーで勝利を続ければ、〝雑音〟は自然と収まるだろう。(田中浩)