YouTubeがショッピング機能で「BASE」と提携 担当者に聞く“YouTubeを使用したビジネスの未来”
YouTubeクリエイターや企業が自身のYouTubeチャンネルを通して商品を紹介できる機能「YouTube ショッピング」。2024年5月21日、グーグルはYouTube ショッピングとネットショップ作成サービス「BASE」との提携を発表した。 【写真】仲田真人の撮り下ろしカット 両社の提携を受け、クリエイターはBASE を使って作成されたネットストアの商品を動画にタグ付けすることや自身のチャンネルのさまざまなところで商品をアピールすることが可能に。よりクリエイターがYouTubeというプラットフォームから収益を確保できる。 今回はグーグル日本法人でYouTube ショッピングを統括する仲田真人マネージャーにインタビューを敢行。YouTube ショッピングの現状やクリエイターの活用事例をはじめ、BASEとの提携経緯、YouTube ショッピングの未来について話を聞いた。 ・きっかけはコロナ 誕生したYouTubeの“新しいビジネスの形” ーー2022年夏に「Shopify」との提携でYouTube ショッピングが導入されましたが、ショッピング機能の導入背景をお聞かせいただけますか? 仲田真人(以降、仲田):YouTubeはこれまで、広告やYouTube プレミアムの還元であったり、メンバーシップ、スーパーチャットという機能を追加し、クリエイターの収益を最大化することを重要な責任のひとつとして取り組んできました。その新たな選択肢として、ショッピング機能を追加しました。 YouTubeでは商品のレビューであったり、商品の紹介をするような動画もありますよね。僕自身もコロナ禍に自宅で仕事をしなければならなくなったときに、マイクやキーボードを購入しようとしましたが、その過程ではクリエイターの皆さんが作られた比較動画を参考にしました。こういうふうにモノとコンテンツは近しいところがあり、ショッピングコンテンツ自体のニーズは成長しつづけています。2023年のグローバルの数字では商品に関する動画が300億時間以上視聴され、購入判断に役立つ内容の動画(長尺動画、ショート動画、ライブ配信を含む)の視聴時間は約25%増加しました。 ーーYouTube ショッピングが導入された2022年の夏はまだコロナ禍で、EC業界が盛り上がっていた時期ですが、コロナ禍が明けても好調な理由というのはどのように考えていらっしゃいますか? 仲田:ネットショッピング自体はコロナ前からありましたが、当時は実際に目にして触っていないものを買えるのかという不安があったと思うんですよね。それがコロナ禍ではやむを得ずネットショッピングを利用しなければならない状況になり、誰かの声を通して情報を得てモノを購入する方が増えたと思います。そのときにYouTubeに商品を紹介するコンテンツがあり、そこでショッピングしようというケースがコロナ後も続いているとみています。 コロナ禍以降、クリエイターがこれまで以上にビジネスパートナーとして見ていただけるようになったと思います。少し時間差があったと思いますが、コロナをきっかけに“新しいビジネスの形”ができたと感じています。 ーーYouTube ショッピングは新しいビジネスの形とのことですが、どのような特徴がありますか? 仲田:YouTube ショッピングの面白い点は、“ECだけど顔が見える商売”をしていることです。これまでのECはランディングページがあり、そこに商品情報と説明文がありましたが、YouTube ショッピングは実際に販売している人の顔が見えるので、実店舗での体験に近いことがやっとできるようになったと感じています。 ーー再生時間といった数字は右肩上がりとのことで、好調のようですね。どういったジャンルやカテゴリーでYouTube ショッピングが活用されているのでしょうか? 仲田:幅広いジャンルで利用いただいていますが、グローバルの数字と比較すると、日本国内で特徴的なのはグッズだと思います。推し活的な文脈でTシャツからアクリルスタンド、ぬいぐるみといったいわゆるファングッズがよく動いています。なかでもアニメのキャラクターやバーチャルクリエイターといったIPものや、ライブ配信が強いというところも日本の特徴のひとつとして挙げられます。ライブ配信からつながっているライブコマースもよくみられていますね。 それ以外ですと、『魚を捌いて美味しく食べる』をコンセプトに動画を配信している「きまぐれクック」さんのように、クリエイター自身のECショップをYouTubeに接続し、普段のコンテンツに近いプロダクトを販売されているクリエイターさんもいます。生鮮食品からアパレル、カー用品といったオリジナルグッズなど、本当にさまざまなものをプロデュース、販売いただいています。 ーー日本にはさまざまなECサイトがありますが、YouTube ショッピングがほかのECサイトと違うところはどういったところでしょうか? 仲田:YouTubeはマスに向けられたテレビとは異なり、すごくニッチなプラットフォームです。その分クリエイターと視聴者の信頼関係が濃く、「大好きなクリエイターさんがおすすめするモノだったら」という視聴者の気持ちが購入につながっています。そこは、YouTube ショッピングがほかのショッピング関連サイトと異なるところだと思います。 ーー実際にYouTube ショッピングを活用されているクリエイターからはどういった感想があがっていますか? 仲田:きまぐれクックさんからは、動画が反響を呼ぶことできちんと購買につながったと聞いています。彼の場合、2024年3月に配信した動画をきっかけに、オオズワイガニを32,000ケース(約66t)販売し、ビジネスの実績と新しい販路を作り、漁業関係者の皆さまにも喜んでもらえたという話がありました。 YouTubeはこれまで、YouTubeがもたらす経済的、社会的、文化的影響について「YouTube Impact Report」で発表してきましたが、YouTube ショッピングではまさに経済的効果が生まれただけでなく、漁業業界への影響といったところで社会的効果も生み出せました。視聴者とクリエイターのつながりが、モノの売買を通じて社会貢献になることがあらためて実感できたこともあり、すごくいい話だと思っていますし、クリエイターエコノミーを活性化させるというYouTube がやりたいことのひとつができたかなと思っています。 ・BASEとの提携で期待することは「スモールビジネスでの活用」 ーー経済効果と社会貢献に寄与しているということを含め、YouTubeでできないことを探す方が難しいですね。今回、連携プラットフォームにBASEが加わりましたが、BASEと提携するに至った経緯を教えていただけますか? 仲田:グローバルで1番リーチのあるD2Cストア「Shopify」を経由してモノを販売し、うまく収益を出されているクリエイターも増えてきたので、日本国内で同じような形でお取り組みさせていただける企業ということで選ばせていただきました。 ーーBASEは日本国内で大手のECプラットフォームですが、BASEとの提携ではどういったことに期待されていますか? 仲田:BASEはクリエイターをはじめ、特に多くのスモールビジネスの皆さまが利用しています。YouTube ショッピングとBASEの連携により、日本のクリエイターや日本の商品を販売されている皆さまの選択肢の一つとして、機能することを期待しています。 ーーYouTube ショッピングの今後のビジョン、展望を教えてください。 仲田:まず日本国内のストアビルダーやさまざまな方と提携させていただき、より国内でご自身の商品を売りたいと考えている皆さまにとって新しいプラットフォームになれるといいなと思っています。 実はアメリカでは先行してアフィリエイトをはじめています。いま提供させていただいているYouTube ショッピングのモデルは、自身の商品を自身のチャンネルで販売いただくというものですが、冒頭で申し上げた通り、自分の商品ではないアイテムのレビュー動画をつくられているクリエイターさんもさまざまなジャンルでいらっしゃいます。そういうクリエイターの方々が動画を通して商品を販売できるよう、アメリカではさまざまなプラットフォームと提携させていただき、アフィリエイトに取り組んでいます。日本でも将来的にアフィリエイトができるようにしていきたいです。 ーー日本でもアフィリエイトが利用できるようになると、よりYouTube ショッピングを活用するクリエイターも視聴者も増えそうですね。 仲田:日本ではライブコマースが定期的に話題になりますが、YouTubeではライブ配信やショート動画、長尺動画と複数の動画フォーマットを選択肢として提供しています。ぜひクリエイターの方々にはさまざまな形で積極的にご利用いただき、ライブコマースを活用されている皆さまには動画プラットフォームならではのバリューを提供し、ビジネスにつなげるサポートができればと思います。 今後ライブコマースは確実に需要が変わっていきますので、いろいろなサポートをさせていただきたいと思っています。視聴者の方々も、YouTube動画ならではのEC体験を楽しんでいただけると嬉しいです。 (参照:YouTubeの経済的影響と収益化の新しい方法)
せきぐちゆみ