ザル法の政治資金規正法は改正が必要だが検察の暴走にも注意が必要だ
第18回のポリティコでは自民党を揺るがすパーティ券スキャンダルの背景にある、政治の世界で裏金がモノを言う実態と、もっぱら検察のリークによって政治体制が根幹から揺らいでしまう日本の統治機構の現状に対する危機感などついて議論した。 パーティ券問題をめぐっては、これまでひたすらリークを記者クラブメディアに報道させることで事件を主導してきた検察が、12月19日、ついに安倍派と二階派の派閥事務所への強制捜査に乗り出した。政治資金規正法で義務付けられた20万円以上のパーティ券の購入者の報告義務を果たさず、さらに「キックバック」として派閥から相当額が各議員に裏金として還流されていた疑いが持たれている。 市民感覚では億単位の裏金など到底看過できないものだが、現行の政治資金規正法では、単純な記載漏れは形式犯と見做され、修正申告すればせいぜい微罪にしか問われない。また、弁護士で元特捜検事として政治家の裏金問題を捜査した経験のある郷原信郎氏によると、裏金に至っては政治活動費として受け取ったと答えれば、不記載罪にも問われない可能性があるというのが、現在の政治資金規正法だという指摘もある。 この際、そもそも政党交付金を導入した際に本来は禁止されたはずの政治家個人に対する企業・団体献金の抜け穴となっているパーティ券については、報告義務を現在の20万円以上から他の献金と同様に5万円まで下げる必要があるし、政治家が複数の政治団体を持っていることが裏金の抜け穴になっているのであれば、1人の政治家が保有できる政治資金管理団体は1つに限定するなど、政治資金規正法の抜本的な改正は不可欠といえるだろう。 それを踏まえた上で、あえて1つ警鐘を鳴らすならば、いち官僚組織に過ぎない検察が、捜査権というゲバルトによってここまで政治を骨抜きにできてしまう現状には注意が必要だ。民主主義においてわれわれ主権者は政治家は選べるが官僚は選ぶことができない。マックス・ウェーバーが言うところの政治家と官僚の「最終戦争」において、政治が強くなり過ぎることも問題だが、官僚が政治に対して圧倒的に優勢になることはもっと問題が大きい。人事と予算を獲得することが至上命題の官僚組織の膨張や暴走を、市民によって選ばれた政治がきちんとコントロールするという民主政の原則だけは維持されなければならない。腐った政治家は次の選挙で落とせばいい。それができないからといって、政治の大掃除を検察に頼るようでは、日本の民主主義がまだまだ未熟な証拠と言わざるをえない。特にジャーナリズムに検察の権力をチェックする能力が根本的に欠けている日本では、この点に注意が必要だ。 大疑獄事件の様相を呈し始めているパーティ券問題に見る、政治資金規正法の明らかな欠陥と、検察のリークとそれをそのまま垂れ流すことに汲々とする記者クラブメディアによって、政治が動かされてしまう現在の日本の統治体制の危険性などについて、政治ジャーナリストの角谷浩一氏とジャーナリストの神保哲生が議論した。 【プロフィール】 角谷 浩一(かくたに こういち) 政治ジャーナリスト 1961年神奈川県生まれ。85年日本大学法学部新聞学科卒業。東京タイムズ記者、「週刊ポスト」、「SAPIO」編集部、テレビ朝日報道局などを経て1995年より現職。 神保 哲生(じんぼう てつお) ジャーナリスト/ビデオニュース・ドットコム代表 ・編集主幹 1961年東京都生まれ。87年コロンビア大学ジャーナリズム大学院修士課程修了。クリスチャン・サイエンス・モニター、AP通信など米国報道機関の記者を経て99年ニュース専門インターネット放送局『ビデオニュース・ドットコム』を開局し代表に就任。著書に『地雷リポート』、『ツバル 地球温暖化に沈む国』、『PC遠隔操作事件』、訳書に『食の終焉』、『DOPESICK アメリカを蝕むオピオイド危機』など。 【ビデオニュース・ドットコムについて】 ビデオニュース・ドットコムは真に公共的な報道のためには広告に依存しない経営基盤が不可欠との考えから、会員の皆様よりいただく視聴料(月額500円+消費税)によって運営されているニュース専門インターネット放送局です。 (本記事はインターネット放送局『ビデオニュース・ドットコム』の番組紹介です。詳しくは当該番組をご覧ください。)