松井玲奈「エッセイの“秘密を共有させてもらう喜び”を感じてもらえたら」 2冊目のエッセイ集を上梓
10代でアイドルとしてデビューし、現在は俳優として活躍している松井玲奈さん。一方で小説家としての顔もあり、このたび2冊目のエッセイ集『私だけの水槽』を上梓。30歳を迎える前後の繊細な心の動きや、人との距離感についての悩み、旅先で食べたおいしいごはん、さらには部屋の片付けをしながら思い浮かんだあれこれ…など、松井さんの日々の暮らしと思考を覗き見しているような気持ちになる、そんな本。 人の日記をこっそり見る、そんなふうに楽しんでもらえたら。 「今回の本に収録しているのは、『小説トリッパー』という文芸誌に連載をしていた作品です。連載のお話をいただいたときは、自分も読んでいる憧れの文芸誌だったので嬉しかった。でも、テーマは自由、そして文字量がこれまで私が書いてきたエッセイの約3倍だったので、最初は書いても書いても“え、まだあと半分も残ってる? ! ”という感じで、選んだ題材が意外と広がらず、“テーマ選び、間違えた…”みたいなこともありました (笑) 。でも、“長い文章”の先、さらにそのまた先に自分自身を連れていくという作業が、徐々に楽しくなってきて。2年間エッセイを連載させていただけて、とても勉強になりました」 小説を書くときは、松井玲奈という人間を感じてもらいたくなく、いつもの自分からまったく離れた物語を書く。一方エッセイは、それを通じて自分を知ってほしい気持ちを込め、“半径5m程度の世界”を書く。本の中に綴られる、頑なで少し不器用、でも自分なりに楽しく毎日を過ごす松井さんの姿に、同世代の女性は共感すること間違いない。 「誰かのエッセイを読んでいると、その人の日記の一部をこそっと見せてもらっている感じがして、そこには“秘密を共有させてもらう喜び”があると思うんです。私のエッセイを読んでくださる人も、そんなふうに感じてくれたら…と思います」 自身に起きた出来事や心の動きをまっすぐに見つめ、内側から、そして時には俯瞰で自分自身を分析し、文章にする。1つのエッセイの中で、自分を切り取る視点が変化していくところがとてもユニークだ。 「本になり、改めて読んで気がついたのですが、結果的に、いま私が何を考えそしてこの先どう進んでいきたいのかということにフォーカスをしたエッセイ集になったな、と思っています。でも、現在や未来のことを考えていると、『じゃああのとき私はどうだったんだろう』と過去を振り返りたくなることもある。私は物事を記憶するとき、自分の主観で見た映像ではなく、別のところにあるカメラで私を含めた状況を撮っている、そんな映像で覚えていることが多いんです。もしかしたら、“かつての私”に関して書いているところが俯瞰の描写になっているのは、そのせいかも…。でもその“記憶の形”も、このエッセイたちを書かなければ気がつかなかったこと。いろいろな発見がありますね (笑)」 小さい頃から、作文を書いたり、絵を描いたり、芝居をしたりなど、自分の中にあるものを表現することが好きだった。今の松井さんにとって文章を書くことは、デトックスすることにも近い、とも。 「思考や思いは、自分の中にある間はなかなか形にできないもの。それを吐き出して、ベタベタと触りながら、粘土を固めていくように形作っていく作業が、今の私にとっての“書くこと”です。それはどこか、心の整理や調整の作業にも近い。連載が終わった今、エッセイが書けないのがちょっとつらいので、日記を書くようになりました (笑)」 表紙には、レトロなウォーターゲームの中を女性と魚が気持ちよさそうに泳ぐイラストが。表紙をめくると現れるのは、深い海のようなブルー。タイトルは、松井さんが地下鉄の駅で偶然見かけた、水槽を描いた絵画に着想を得た。 「自由に、自分の好きなように泳ぎ回れる水槽を持っていたら、きっと人生は楽しいし、強く生きられる気がして、この書名にしました。そんな私の気持ちが、本を手にとってくださる方に伝わったら嬉しいです」 『私だけの水槽』 文芸誌『小説トリッパー』に連載されたエッセイに加え、新たに書き下ろした作品も収録。松井さんと同世代の女性に向けご本人からのおすすめは、「クリストファー・ロビンに従って」。また、ラストの「趣味の収穫どき」も秀逸。朝日新聞出版 1650円 まつい・れな 1991年生まれ、愛知県出身。役者、小説家。著作に小説『カモフラージュ』『累々』 (共に集英社) 、エッセイ『ひみつのたべもの』 (小社刊) が。現在文芸誌『小説すばる』 (集英社) にて、小説を連載中。 ジレ¥104,500 スカート¥41,800 (共にエズミ/リ デザイン TEL:03-6447-1264) カットソー¥31,900 (プント ドーロ/ブランドニュース TEL:03-3797-3673) アクセサリーはスタイリスト私物 ※『anan』2024年6月12号より。写真・内山めぐみ スタイリスト・井阪 恵 ヘア&メイク・白石真弓 (by anan編集部) あわせて読みたいanannewsEntame 松井玲奈「一種のメディテーションみたいなものかも」 ひとりごはんの醍醐味…2022.10.17anannewsEntame 松井玲奈「顔より内面をちゃんと見てもらえたら嬉しい」 中島歩と『よだかの…2022.9.18anannewsBeauty 松井玲奈「自信のあるパーツは…やっぱり、披露するならウエスト (笑)」2022.7.16anannewsEntame 松井玲奈「闇が深い時がありました」と苦笑い 食にまつわる初エッセイ2021.4.22anannewsEntame 松井玲奈、2作目の小説 「パパ活」中の女子との出合いが執筆のきっかけに2021.3.15