【ラグリパWest】人を惹きつける留学生。ソロモナ・タイレル(Solomona TYRELL/IPU・環太平洋大学ラグビー部/FW第3列)
人を引きつけるラグビー留学生がいる。 ソロモナ・タイレル(Solomona・TYRELL)だ。サモア系のニュージーランド人だ。姓はタイレルである。 褐色の中の黒い瞳がキラキラする。子どものように汚れがない。 「日本の人たちは優しいです」 タイレルの通う大学は岡山にあるIPU・環太平洋。4年生だ。IPU はInternational Pacific Universityの略語である。 その性格のよさを高見澤篤が短文で伝える。 <実にいい子でした> 真摯な受け答え、視線の真っすぐさなどに感銘を受けた。高見澤は66歳。立命館で監督やGMを経験したアドバイザーでもある。 2人の接点は先月30日にあった東西学生対抗戦だった。関東ラグビー協会の100周年記念である。タイレルは西軍学生代表26人に四国・中国地区から唯一選ばれた。 高見澤はそのプレーも文字にする。 <タテ突破が起点でした> 後半43分、立命館の石橋隼(はやと)のトライを演出する。タイレルはFW第3列で交替出場。試合は24-63で敗北するも、その存在感を示した。 IPU・環太平洋の監督は小村淳(あつし)。同じFW第3列出身でその位置の選手の評価は辛くなりがちだが、タイレルは違う。 「賢い選手だよね。局面を見ている」 防御ラインが崩れたと見て取れば、その隙間に走り込む。180センチ、107キロの体を利したタテ突破のみではない。 小村は現在、54歳。明治から神戸製鋼(現・神戸S)に進んだ。現役時代はフィジカルに強いFLとして日本代表キャップ4を得た。 その小村が鍛え上げるタイレルには近未来の希望がある。 「プロのラグビー選手になりたいです」 そのために太平洋を大きく北上した。 「日本のラグビーはこれからもっと成長します。チャンスをつかもうと思いました」 試合のあった秩父宮ラグビー場では同級生とのうれしい再会もあった。当初、東軍学生代表に選ばれていた小村真也である。姓は同じだが、2人の間に縁戚関係はない。小村はケガで出場を辞退していた。所属の帝京大ではWTBやFBなどをこなす。 2人はニュージーランドの北島にある高校、ハミルトン・ボーイズで一緒だった。 「話をして、また会おう、と言いました」 ハミルトンは最大都市のオークランドから車で1時間30分ほど。南へ下がる。 2人は2019年度の国内の高校選手権で優勝した。思い出は今も鮮やかだ。 「私はNO8で主将でした。決勝戦はロトルア・ボーイズ。スコアは34-13でした」 タイレルは18歳以下のワイカトチーフスにも選ばれている。 その生まれ育ちはニュージーランドだが、両親はサモアの出身だ。 「私の名前は父と同じです。本当はジュニアをつけないといけません」 家長である父の期待を背負う。タイレルは6人兄弟の一番下、末弟である。 競技を始めたのは5歳。ハミルトンのクラブ、イースタン・サバーブスだった。 「周りがみんなやっていました」 オールブラックスに代表されるようにラグビーは国技だった。 5歳から続けたラグビーによって、タイレルが来日したのは2022年。コロナでニュージーランドは国境封鎖をした時期もあり、大学1年にあたる2021年はオンラインなどで大学の講義を受けた。 来日して大きなよろこびは憧れのアーディ・サベアに会えたことだ。 「今年の3月に神戸で会えました。速いし、パワーはあるし、スキルフルです」 同じFW第三列。サベアはニュージーランド代表キャップ84を誇る。 サベアと同じ神戸Sに所属するティエナン・コストリーはタイレルにとって大学の2つ先輩になる。 「すごく誇りに思っています」 コストリーは運動量の豊富さなどで、先月22日、17-52と敗れたイングランド戦でFLとして日本代表デビューを飾った。 IPU・環太平洋のOBには、この年明けに静岡BRに入団したPRのショーン・ヴェーテーもいる。リーグワンに選手を送り込み始めたラグビー部の創部は開学と同じ2007年。大学は体育など3学部6学科を擁している。小村の監督就任は2018年だった。 小村は指導5年目でこの青いジャージーを四国・中国地区を含め、初めて大学選手権に出場させた。59回大会(2022年度)は初戦の2回戦で福岡工業大に25-31と敗れるが、歴史を作った。この一戦でタイレルは後半、交替出場をしている。 昨年度の60回大会は出場を決める東海・北陸・中国・四国地区代表決定戦で中京大に10-29。連続出場はならなかった。 「大学選手権にまた出たいです」 タイレルはチーム目標をそう語った。 その目標を達成できるよう、タイレルはウエイトの前にバイクを30分ほどこぐ。持久力アップを目指す。ベンチプレスは150キロ、スクワットは200キロまで最大を伸ばす。 生活でもこの極東の島国に慣れた。 「好きな食べものはすしや焼き肉です」 日本の学生と変わらない。練習がオフの日には、仲間と釣りをしたり、母国より大きな商業施設、モールをそぞろ歩く。 来日3年目の充実の中、チームを勝たせることはすなわち、自分の望み、「プロ」になることに近づく。海を渡り、異文化の中で生きている努力を形に変えたい。 (文:鎮 勝也)