<大移民・難民時代の到来>トランプ劇場第二の幕開け 命がけで故郷を離れる人々を追う、国境の現場で起きていることとは?
欧州のアキレス腱といえる移民・難民問題を狙い、ロシアとベラルーシは揺さぶりをかけ続けた。侵攻に先立つ21年、ベラルーシからポーランドへ突然、中東やアフリカ出身者が密入国を始めた。移民を兵器に見立てた「ハイブリッド攻撃」と受け止めたポーランドは国境の外に押し返し、数千人が深い森で立ち往生する事態になった。23年にはロシアからフィンランドへの越境が始まった。 フィンランドは難民申請希望者を国境の外に押し返す「プッシュバック」の合法化に踏み切り、ポーランドは難民申請の受け付けを一時停止する方針を打ち出した。英国は難民申請者のルワンダへの移送(政権交代で撤回)、イタリアはアルバニアへの移送を試みる(裁判所の判断で停止)など、なりふり構わぬ対策が打ち出され、人権尊重という欧州の建前は見る影もなくなった。
激しさを増す人材獲得競争日本人が知っておくべきこと
ただ、排除一辺倒というわけではない。 少子高齢化が進む先進国は軒並み人手不足に陥っており、外国人労働者なしには経済活動が維持できない事情があるためだ。 英国はEU離脱(ブレグジット)で欧州系移民が去った後の欠員を補うため介護士の受け入れを拡大し、移民規制を強めるイタリアも合法的な外国人労働者の受け入れは倍増させる方針だ。 不動産や事業への投資を条件に長期滞在できる「ゴールデンビザ」を発給する国や、一定の収入と技術を持ってオンラインで働く「ノマドワーカー」を誘致しようと特別なビザを発給する国も多い。 アジアに目を向ければ、育成就労制度の創設や特定技能制度の拡大を進める日本と同様、韓国や台湾も東南アジアなどからの労働者受け入れに注力しており、人材獲得競争が激しさを増す。 超円安の時代に海外に活路を求める日本人にとっては、移住先のニーズに合う技術や技能があれば道は開かれている。日本人に対する国際的な信用は高く、筆者も行く先々で日本人に親しみと敬意を持つ地元の人たちに温かく迎えられた。 だが、雇用や物価高、治安、薬物といったあらゆる問題と絡めて移民・難民に向けられる厳しい視線は、外国で暮らす日本人にも無縁ではない。在留や就労の条件が厳しくなったり、家族の呼び寄せが制限されたりするなど、各国で移民・難民政策の厳格化が相次ぐ。コロナ禍の米国でアジア系住民へのヘイトクライム(憎悪犯罪)が頻発したり、アフリカやアジアで中国人狙いの犯罪が起きたりする中、刃が思わぬ形で日本人に向けられるリスクもある。 様々な形で世界を揺さぶる移民・難民の流れはどこから来るのか。筆者は24年夏、ユーラシア大陸とアフリカ大陸を行き交うヒト・モノ・カネ・情報のハブ(中継点)となっている中東アラブ首長国連邦(UAE)ドバイに10年ぶりに拠点を移した。次は欧米に向かう人の流れの「最源流」ともいえる中東・アフリカで、人が命がけで故郷を離れる理由を探りたいと思っている。
村山祐介