買い物難民を救え! 災害時に力を発揮する「路線バス戦略」をご存じか
復興支える柔軟輸送
平常時、貨客混載型のバスは、荷物の運搬や集荷に使われるため、時刻表どおりに運行される。一方、災害時には地域コミュニティーの衰退や経済への影響が懸念される。 人の移動がなければ、そもそも地域経済の活性化は望めない。線路を利用する鉄道と違い、バスは災害復興において鉄道よりも柔軟に地域のつながりを強化できる可能性を秘めている。バスが孤立したコミュニティーを迅速につなぎ、街の中心部と村落を結べることを考えれば、バスの重要性が明らかになる。 大型2種免許を持つプロドライバーが運転するバスは、安全面でも信頼性が高い。生活支援と観光支援を両立できるフレキシブルなバスは、災害後、落ち着いて被災地を訪れてもらうためにも役立つはずだ。 つまり、従来の時刻表に基づいたバスではなく、オンデマンドバスが旺盛な移動を支え、地域をつなぎ、移動の利便性を向上させると考えられる。 ドライバー不足を考えれば、3ナンバーのワゴン車両を活用して小型バスにするのもいいだろう。災害を考えると、オンデマンドバスやオンデマンドワゴンのシステムは意義がある。かつての東急コーチ(東急バスが運行していた貸し切り路線バス)のように、固定路線とデマンド路線の両方を用意する方法もある。 地域をつなぐ柔軟な手段として、オンデマンドバスやオンデマンドワゴンのシステムをあらかじめ用意しておくことも、災害対策になるのではないか。
産官学民連携の復興策
車両やシステムのアップグレードだけではない。デジタルトランスフォーメーション(DX)社会では、バス停や待合所にあらかじめ電源スポットを設置しておくことも十分可能だ。 また、主要なバス停を中心にデジタルサイネージを設置し、いわゆるインターネットの恩恵を受けられない人たちでも簡単に情報にアクセスできるようにするという考え方もある。スマートフォンなどが苦手な人でも、地元のバス停に行けば災害や復興、交通に関する情報が得られるというイメージがあれば便利だろう。 筆者(西山敏樹、都市工学者)の研究室では、バス停の空きスペースを地域コミュニティーづくりの拠点として活用する実験を行ってきた。平時はバスの営業所をテレワークなどに貸し出し、災害時には復興に向けた活動に優先的に活用するというアイデアもある。 バス発着場は、移動をともなう復興活動において、燃料や車両整備の面でもメリットがある。このような新しいアイデアも研究から出てきている。 もちろん、こうしたアイデアはバス会社だけで実現できるものではない。行政も交通部門と災害対策部門との連携が必要だし、産官学民の連携で組織の枠を超えた取り組みが必要だ。それでも、地域を柔軟に走れるバスシステムは、復興に生かせる側面が多いのではないか。
西山敏樹(都市工学者)