「県警批判をしたら仕返しにワナにはめられかけた」 元産経記者の経験した「警察の怖ろしさ」
誤解か陰謀か
最終的に午前3時ごろまで後輩記者は付き合ってくれたが、とりあえず、お開きになって、翌日からは別の取材に専念し、記者クラブにようやく帰ったころには昼近くになっていた。クラブに入るや否や、着任したての広報室長が隣室からすっ飛んできた。 「誤解だからね。そんな言論弾圧なんてしていないから。T部長は関係ないから」 デンスケ賭博の語源とされる、県警が誇る昭和の名刑事、増田伝助の息子だと言われている人だった。豪放磊落なデンスケの倅にしては、能吏で几帳面なタイプに見えた。僕がパトカーの乗務員に吐いた言葉が、ほぼ正しく広報室に伝わっているのに苦笑した。 「関係ないか知らんけど、まあ、そういうことなんだな、とこちらは思ってますから」と言うと、「また~」と言って弱り切った顔で部屋に戻って行った。 だからといって「本紙記者、県警に酒気帯び運転をでっち上げられる」といった記事を書いたわけでもない。こういうことは警察を回っていれば、ままあることで、嵌めようとしたのかもしれないし、こちらの被害妄想かもしれない。突き詰めても詮(せん)がないのだ。 *** 三枝氏が述べている通り、この一件の真相は不明である。ただ、警察が「やる気」になればあらゆることが可能だということは、頭の片隅に入れながらニュースを見たほうがいいのではないか。
三枝玄太郎(さいぐさげんたろう) 1967(昭和42)年東京都生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業。1991年、産経新聞社入社。警視庁、国税庁、国土交通省などを担当。2019年に退職し、フリーライターに。著書に『三度のメシより事件が好きな元新聞記者が教える 事件報道の裏側』『十九歳の無念 須藤正和さんリンチ殺人事件』など。
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