プレミア史上最高の優勝争い“最終章” マンCが盤石も…アーセナル&リバプールに残る希望【現地発コラム】
リバプール本拠地が生み出す感情の力
リバプールにしても、4月最初のシェフィールド・ユナイテッド戦(3-1)までは、タイトルレースをリードしていた身だ。逆転優勝への希望は持てる。続いて、リーグ戦2試合連続で勝ち星に見放された格好だが、7日のユナイテッド戦(2-2)は、前半で3-0と勝敗の行方を決めていて然るべき内容だった。後半も、CFのダルウィン・ヌニェスにゴール前での落ち着きさえあれば、絶好機が無になることはなかった。 翌週のクリスタル・パレス戦も、ポゼッション70%にシュート21本と、優勢は優勢だった。2か月ぶりのアリソン・ベッカー復帰というプラス材料もあった。「足もと派」だが“手もと”も確かな正GKは、好セーブで守護神復活をも思わせた。 集団としては、ユルゲン・クロップ監督が「リバプール2.0」と呼ぶ過渡期にあるだけに、現体制下で2度目のプレミア優勝を成し遂げるためには、全ての「個」がフルに力を発揮し続けなければならない厳しさはある。この必要条件は、移籍1年目で、3月末のブライトン戦(2-1)で負った怪我を抱えながら先発を重ねる遠藤航にも当てはまる。 ただし、逆境に強いチームと言えば、「カムバックキング」の異名を取る今季リバプールでもある。加えて、優勝を懸けた残り試合では、対戦相手にすれば「魔物」とも言うべきアンフィールドの力が増すことも請け合いだ。 一部には、来季のチケット代値上げを巡るファンの不満を危険因子とする報道もある。だが、クロップ体制最終シーズンに優秀の美を飾らんとする決意が、一時的に来季云々を忘れさせ、より一層の団結を可能とするに違いない。 今季クライマックスに向け、リバプール・サポーターが生み出す感情の力は、グアルディオラとともに新たな記録達成に挑むシティ、20年ぶりのリーグ優勝を期すアーセナルを突き動かす感情に勝るとも劣らない。5月にアンフィールドに乗り込むトッテナムとウォルバーハンプトンは、間違いなく「12人」のチームを相手にする90分間を強いられるだろう。 かくいう筆者も、優勝の行方を訊かれれば、ずっと「シティ」と答えてきた。だが一方では、プレミアファンとして手に汗握る三頭立ての熱戦を堪能し続けたいと願う気持ちもある。 リーグタイトルはシティのものという声が強まった週末、対照的に優勝争いは終わったとする説も出たアーセナルのホームでは、レース継続に期待を持たせる光景も目にした。 それは、デクラン・ライスの毅然とした態度。今季の新主軸は、そこかしこに目に付く空席などないかのように長々とスタンドの同志を称え、笑顔ではなく、決意の表情で拍手を送りながらトンネルへと消えていった。 そして、報道陣の前で言った。「この先も(優勝争いは)展開し続けると思っている。今日の結果が示すように、何が起こるかわからないのがプレミア。決勝戦が6試合続く覚悟で死力を尽くす」と。 [著者プロフィール] 山中 忍(やまなか・しのぶ)/1966年生まれ。青山学院大学卒。94年に渡欧し、駐在員からフリーライターとなる。第二の故郷である西ロンドンのチェルシーをはじめ、サッカーの母国におけるピッチ内外での関心事を、時には自らの言葉で、時には訳文として綴る。英国スポーツ記者協会およびフットボールライター協会会員。著書に『川口能活 証』(文藝春秋)、『勝ち続ける男モウリーニョ』(カンゼン)、訳書に『夢と失望のスリーライオンズ』、『バルサ・コンプレックス』(ソル・メディア)などがある。
山中 忍 / Shinobu Yamanaka