ここにきて「Wikipedia 3大文学」に脚光…絶版の「原典」復刊、文庫フェア開催を実現させた“書店員の熱意”
興味本位で読み始めたとたん、「続きが気になって止まらなくなる」ことから、“3大文学”と称されるWikipedia記事があるのをご存じだろうか。「三毛別羆事件」「八甲田雪中行軍遭難事件」「地方病(日本住血吸虫症)」の3つの記事のことである。 【写真を見る】18歳の健康者と25歳の患者の比較写真が怖すぎる! 寄生虫によって発育を阻害された患者の姿 ***
読み応えたっぷりなノンフィクション・ノベルが原典
実際にWikipediaの当該ページを読んでみると、それぞれがおどろおどろしい事件で目を引くのだが、なによりも妙に記述が生々しく、つい先へ先へと読み進めてしまう。 「実は、Wikipedia3大文学の解説文は、実在するノンフィクション・ノベルと 関連のある箇所が多いのです。“三毛別羆事件”の記事は吉村昭先生の『羆嵐(くまあらし)』と、“八甲田雪中行軍遭難事件”は新田次郎先生の『八甲田山死の彷徨』と、そして“地方病(日本住血吸虫症)”は小林照幸先生の『死の貝 』を参考にしていることが分かります。3作品とも骨太のノンフィクション・ノベルで、読み応えたっぷり。『死の貝』は最近文庫化されたばかりですが、残りの2作品は新潮文庫のロングセラー作品でもあります」 そう解説するのは、このたび3作品を並べた「Wikipedia3大文学」フェアの展開をはじめた新潮社の担当編集者だ。 “3大文学”と関わりのある、『羆嵐』と『八甲田山死の彷徨』は既に刊行されていたが、『死の貝』はちょうど4月に発売が開始されたばかりとのこと。なぜ1作品だけ今になって刊行されたのか――。その裏事情を含め、3作品の概要をご紹介する。
「腹破らんでくれ!」
まずは『羆嵐』の「三毛別羆事件(さんけべつひぐまじけん )」から。 1915年に北海道の三毛別で起きた凄惨な熊害事件。エゾヒグマが開拓民の集落を二度にわたって襲撃し、死者7名(うち胎児1名)、負傷者3名を出した大惨事である。 最初の犠牲者が出たのは12月10日のこと。太田家の内縁の妻・マユと養子に迎える予定だった幹雄(6歳)がクマに襲われ死亡した。幹雄の遺体には喉と側頭部に親指大の穴があき、マユの遺体は脚のひざ下部分と頭蓋の一部しか残っていなかった。 翌日の夜、村民たちが2人の通夜を執り行っていたところで、二度目の襲撃が起きる。“獲物”を取り返しにきたのだろうか。昨日2人を襲ったクマが、通夜に乱入してきたのである。棺桶に入っていた2人の遺体は散らばり、恐怖にかられた参列者たちは四方八方に逃げ回る大パニックとなる。 ほどなく、通夜のあった家から熊の姿は見えなくなったが、今度は別の家族が襲撃を受け、そこでは胎児を含む5人が殺害されることに。この時に食い殺された妊婦のタケが胎児の命乞いをした際のセリフ「腹破らんでくれ!」は、多くのWiki読者にトラウマを与えてきた。 『羆嵐』では、わずか2日間で7人もの命を奪った“人喰いエゾヒグマ”を前に、なす術のない人間たちの様子と、その中でただ一人、冷静沈着にクマと対決する老練な猟師の姿が圧倒的なリアリティで描かれている。