注目俳優・小林虎之介「歌舞伎町で生きる人間を表現したい」悩める不良生徒を熱演<宙わたる教室>
とある実話に着想を得て生まれた感動的な小説を、窪田正孝を主演に迎えてドラマ化したドラマ10「宙(そら)わたる教室」(毎週火曜夜10:00-10:45、NHK総合ほか)が10月8日(火)からスタートする。本作の舞台となる東京・新宿にある定時制高校には、さまざまな事情を抱えた生徒たちが通っていた。負のスパイラルから抜け出せない不良の柳田岳人もその一人。年齢もバックグラウンドもバラバラな彼らのもとに、窪田演じる秘密を抱えた理科教師の藤竹叶が赴任してきて、藤竹の導きにより、彼らは教室に「火星のクレーター」を再現する実験で学会発表を目指すことに…。放送開始を前に、重要人物の一人、柳田岳人を演じる小林虎之介にインタビューを行い、作品のこと、演じる役柄のこと、共演者のこと、見どころなどを語ってもらった。 【写真】ド派手な金髪で不良を熱演 ドラマ10「宙(そら)わたる教室」に出演する小林虎之介 ■「“歌舞伎町で生きてる”っていう人間の説得力を出したい」 ――ドラマ10「宙わたる教室」への出演が決まった時の気持ちから聞かせてください。 NHKさんのドラマにしっかりと出るのは今作が初めてで、主演が窪田さんというのも聞いていたので、すごい楽しみだなぁって思いました。“ドラマ10”という大きな枠での作品でもありますので、「頑張りたいな」という気持ちになりました。 ――伊与原新さんの小説が原作ですが、原作を読んだ感想は? 原作はどちらかというと“岳人”が中心になっていたので、僕としては演じる上で参考になりました。“岳人”に関していうと、「下に落ちそうな感じ」がありつつ、「まだ希望を失いたくない」という思いを、両方持ち合わせていると感じたので、そこをうまく表現できればいいなと思いました。 ――ドラマの第1話は、岳人にスポットが当たった内容になっていますが。 はい。岳人は今、定時制高校の2年生なんですけど、小さい頃から“読み書き”が苦手で、自分のことを馬鹿だと思っていて…。目的があって定時制高校に通いはじめるんですけど、1年間通っても一向に読み書きの苦手が改善されなくて。周りにはクスリの売人をやっている悪い友達がいたりして、「そっち側に行ってしまおうか」と迷う様子が第1話で描かれています。岳人は中学から不登校になって不良の道に足を踏み入れてしまったんですけど、ただの悪い不良にはしたくないなと思い、演じていました。定時制高校にも1年間は頑張って通ってたわけですし。 ――会見で、岳人が生きてきた場所である“新宿・歌舞伎町”に実際に行ってみたと話されていましたが、そういう場所に足を運んだことで実感したこともありそうですね。 そうですね。“歌舞伎町で生きてる”っていう人間の説得力を出したいなと思って、歌舞伎町を自転車でぐるぐる回ってみました。演技をテクニックでやるのが得意じゃないので、演じる役が生きてきた環境を実感するために行ってきました。 ■難しい役ながら…「岳人のことを理解できないとは一度も思わなかった」 ――岳人を演じる上で難しかった部分はありましたか? 読み書きが苦手な人物ということで、何を演じる時でもそうなんですけど、そこをリアルに見せるというのはいつも難しいなと思います。撮った後にモニターでチェックしてみて「こういうふうに見えてるんだ」と勉強しながら調整していきました。 ――役づくりする上で、誰かに相談したりとかは? 監督とはもちろん相談はしますし、ずっと見てくれている記録の方とか、別の話の監督にもどう見えたか意見を聞いたり、アドバイスをいただいたりしました。僕がこう思ったというよりも、第三者からの意見の方が視聴者の意見に近いと思うので参考にさせてもらいました。「弱々しく感じる」って言われたら、「岳人の不良っぽさを、もう少し出さないといけないな」って思って、バランスを考えてみたりしましたし、現場で演じながらどうしたらいいのかを常に考えていました。難しい役ですけど、岳人のことを理解できないとは一度も思ったことがないので、演じる上で一番寄り添えるようにしようという気持ちはありました。 ――定時制の東新宿高校にはいろんな事情を抱えた生徒が集まっていますが。 全日制の高校とは全く雰囲気が違いますよね。年齢もバラバラですし、いろんな生徒がいるんだなと思いましたけど、焦点が当たってない人も含めて、みんなそれぞれストーリーがあるんだろうなって思いました。でも、岳人は学校に通う人たちみんなを“仲間”だと思っているので、定時制自体をバカにされたら怒っちゃうシーンもありますし、辞めようかどうしようかという気持ちがありながらも大事な場所だとわかっているんだと思います。 ■窪田正孝演じる藤竹は「変な人(笑)だけど、奥にあるやさしさが伝わる」 ――先生役の窪田さんと共演してみていかがでしたか? 共演させていただいて、すごく勉強になることが多かったです。窪田さんは現場を明るくする雰囲気づくりもされていて、他の方たちも笑顔になって楽しい空気になるんです。そういう姿は学ぶべきことだなと思いましたし、みんなが楽しく仕事していたほうが、やっぱりいいものが出来るなぁって。なので、窪田さんがいないシーンでは僕が頑張って明るくしようみたいな気持ちにもなりました(笑)。窪田さんの姿を参考にというか、自分も取り入れてみたら現場の空気も変わるかなって思いつつ、自分なりに実践させてもらいました。 ――窪田さんが演じる藤竹叶は、先生でありながら研究者でもあるので、普通の先生とは違う感じですよね。 変な人ですよね(笑)。第1話で言うと、ご飯を食べに行ったらトッピングをいろんな組み合わせで試して食べるし、生活全てが“実験”みたいな感じなので、おかしなヤツではあるんですけど、数少ない岳人を理解しようとしてくれる人なんです。人情がある感じではないんですけど、奥にある優しさが岳人にも伝わっていて、嫌いじゃないんですよね(笑)。なんか“気になるヤツ”って感じです。 ――淡々としてそうで、ちゃんと生徒のことを見てる感じも。 はい、生徒それぞれのことをしっかり見てるなと思いました。 ■学生時代のワクワクした気持ちも思い出しながら見てほしい ――第1話でも“実験”のシーンがありましたが、実験のシーンの撮影は楽しそうだなって思います。 すごく楽しいですよ。脚本にも実験の内容が書かれてるんですけど、やっぱり文字だけだと分からないことも多くて。でも、実際に実験装置を目にして説明するとすごくわかりやすいんです。窪田さんの説明の仕方もすごくわかりやすいんですよ。そういうところも学べた部分でもあります。実験のシーンの撮影をしていた時に、「そういえば学生の時に実験って好きだったなぁ」って思い出しました。体育とか実験とか、ワクワクする授業が好きなんですよ。そういう方って多いと思うので、学生時代のワクワクした気持ちも思い出しながら見てもらえたらいいなと思います。 ――お話を聞いていて、登場人物それぞれのバックボーンだったり、今抱えている悩みや問題だったり、実験、人間関係など、いろんな見どころがあるドラマだと感じました。 いろんな世代の方に楽しんでもらえると思います。年配の方だとイッセー尾形さんが演じている70代の生徒の長嶺さんの考えも理解できると思いますし、各世代の生徒がいるので、その人物に自分を重ねて見てもらうのもいいかもしれないです。 ――演じる“岳人”に関して、「ここを注目してほしい」とか「こういう部分が伝わったら」というところを教えてください。 岳人の中には「勉強したかった」とか、子どもの頃のままの岳人がいるんです。でも環境によって、自分で殻を作ってしまった人間なんですよね。それが藤竹と出会って、科学実験をした時に、その殻が薄くなるというか、中から出てくる岳人の子どもの時の“目”とかが、今の岳人とリンクしてくれればいいなと思っています。 ◆取材・文=田中隆信