【インタビュー】思うように進めないときでも、あなたの選ぶ道が正解だから――ソニンが実践するポジティブなマインド
2023年、配信サービスにおいて映画史上世界NO.1の視聴数を突破し、世界で最も観られたアニメーション映画『モアナと伝説の海』。待望の続編、『モアナと伝説の海2』が公開中だ。 【写真】マタンギの日本語吹き替えを担当 海に選ばれた島育ちの少女モアナが、半神半人マウイと出会い共に航海した1作目から3年後が舞台。少し大人になったモアナが、広い海を分断する呪いを解き、再び世界をひとつにするための冒険に旅立つというストーリー。 美しい海や島々のうっとりするような描写に、おなじみの愛すべきキャラクターたちがひしめきあい、スペクタル度も大増しとなった『モアナと伝説の海2』。物語をさらに盛り上げるべく、新たなキャラクターも投入されている。 中でも、敵なのか・味方なのか、妖艶ないでたちでモアナを翻弄するマタンギは、劇中でもキーとなるニューキャラクター。日本語吹き替え版を担当したソニンは、「電話で合格を聞いて、道端で叫びました!」と配役後の喜びを語り、熱心に役作りに打ち込んだという。 アーティストとしてデビューし、現在、主に舞台でその圧倒的な歌唱力と演技力を発揮しノリに乗っているソニン。インタビューでは、マタンギ役を演じる上での心構え、本作が導いてくれる「勇気を出して踏み出す」ことの大切さなど、実体験を交えて心のうちを語ってもらった。 「悪人でも善人でもない」マタンギの声を担当 ――ソニンさんは、オーディションでマタンギ役に決まったと伺いました。報せを受けたときは、どのような気持ちでしたか? 受かったと聞いたときは、本当に信じられませんでした。声優のお仕事自体、本作が初めてなんです…! ディズニー作品の声を務めることは、おそらく多くの役者さん、声優さんの目標というか、憧れだとも思うんです。私も例に漏れずでしたので、選んでいただいたことが本当にうれしかったです。 ――ソニンさんの圧倒的な歌唱力と表現力が際立っていた印象です。どのようにマタンギに挑んでいかれたんですか? 正直すごく難しかったです。マタンギはわかりやすく「悪者」でもなく、「いい人」でもなく、どこの位置にいるのかが見えないような、わざとそういうポジションにいるキャラクターなんですよね。その塩梅をかなり探りながら、声を吹き込んでいきました。 監督にご指導いただきつつ、何よりもオリジナルのキャストさん(アフィマイ・フレイザー)がいらっしゃるので、アフィマイさんから受ける印象に照準を合わせました。自分だけで生み出したマタンギというよりも、オリジナル版の雰囲気をできるだけ日本語にするように、ニュアンスを崩さずということを一番に意識して取り組みました。 ――オリジナルを踏襲しながらもご自身の声で表現することは、自分で100%構築するよりも難しそうに感じます。特に苦心した、こだわった点はどこでしょうか? やはり、悪人でも善人でもない、わからないような声の感じを出すことです。一見すごく悪そうに見える、いわゆるヴィランっぽいシーンもあるじゃないですか。通常であれば徹底して悪に見えるように表現するところを、あえて“抜く”ようにしました。それは台詞にしても、歌い方にしても、同じく意識した点です。微妙なところを狙って「マタンギってどっちなの!? 何なの、この人~!」みたいな、ある意味軽さを出すところに一番苦戦しました。 「何度でも通いたい」ミュージカル映画 ――歌唱では非常に艶っぽさもありましたが、そのあたりも意識されたところですか? はい。私は普段ミュージカルでパワフルに歌う役が多いんですけど、そっちに行きすぎないように意識しました。声は妖艶にしつつ、「ちょっとつかみどころなくて謎だよね」という雰囲気を残すように、といいますか。パワーだけで行き過ぎず、妖艶さもあるという歌唱方法も、すべてオリジナルの楽曲を忠実にやった感じです。 ――ご自身の声も入った日本語版の本作を、ソニンさんはどんな風に楽しみましたか? 私が声を吹き込んでいたときは、ずっと洞窟というか貝の中の世界だったので、そこだけしか映像を確認していなかったんです。全編を観て「ええっ、こんなに壮大な映画なんだ!」と感動しました。海もすごく綺麗で…。私は1000年も貝の中にいるので、「みんな気持ちよさそう!」みたいな(笑)。 癒されましたし、海外に行った気分になりましたね。映画館でこんなにヒーリング効果を得られるのなら、何度でも通いたいと思うぐらいです。すごくスケールの大きい、ディズニーならではのミュージカル映画だと思いました。 何より、日本版声優を担当された皆さんの声が本当に素晴らしかったです。それぞれ役のイメージにぴったりすぎて、オリジナルの方を意識したのか、どこまで盛り込んだのか、すごく気になりました。皆さん、一人で収録したそうなんですが、「みんな一緒に録ったんじゃないの!?」と疑いたくなるくらい(笑)。すごく息の合った掛け合いで、吹替版も絶対に楽しんでいただけると思います! ――本作ではモアナのよき相棒として、マウイ、ブタのプア、ニワトリのヘイヘイなども活躍します。ソニンさんにとって、そんな相棒的存在はいますか? 相棒かあ…難しいですね! もう天国に行ってしまった私のワンちゃんにプアちゃんの柄がそっくりで、鼻もピンク色なので同じなんですよ! だから観ているときも、プアが映るたびに癒されて。相棒と言うと、いつもそのワンちゃんを思い出します。本当にプアが可愛くて可愛くて、プアだけはマタンギのそばにいてほしいから、貝の中に閉じ込めておきたいくらいですね(笑)。 勇気をもらった言葉 「あなたが進む道がすべて正解」 ――マタンギは、道は一つではないとモアナにそっと助言しますよね。その台詞やモアナの行動から勇気をもらう観客も多いと思います。ソニンさんご自身もいくつかの道で迷った末、勇気を出して踏み出した経験などあれば、ぜひエピソードを教えてください。 マタンギがモアナに向かって伝えた言葉は、本当にその通りだなと思います。誰もが割と「こっちが幸せ」、「こっちしかない」と思い込んでしまいがちですけど、道は意外とたくさんあるんですよね。でも、若い頃なんかは私も全然そんな考えを持てなかったですし(苦笑)、年を重ねたから分かることもあるなと思います。 私の話をすると…12年前、ニューヨークに留学しようと決めたときが、似た状況でした。信念を持って学びに行こうとしていたのに、いろいろなタイミングがそろわないと行けないから、行けるかどうかわからない、となったことがあったんです。自分が決めた道だったのに叶わないかもしれないと思ったので、あのときは本当に落ち込んで…。 そのときに、友達が「万が一行けなかったとしても、それがおそらくあなたの正解の道なんだと思うよ」と言ってくれました。「一見うまくいっていないと思うかもしれないけれど、それがあなたにとってベストな道、なぜなら結果がそうなるから。今そんなに落ち込まなくてもいいんじゃない?」って。私が進む道がすべて正解だと言われて、すごく勇気をもらいました。 ――非常に素敵な言葉ですね。まるで指針の一つになるような。 はい、本当に。そのときに「迷わなくていいんだな」と思ったんです。今ここでぐじぐじ悩んでいても結果はついてくる、と思えて。結果、ニューヨークには行けて1年半くらい住んだんですけど、その言葉はいまだに支えになっています。 私たちはいつもすべてがうまくいくわけではなくて、モアナのように迷ってしまったり、自分が思い描いたことじゃないシチュエーションも起こるじゃないですか。常にジャッジメントされますし、いろいろな道が目の前に現れるときもある。 最初はAを希望していて、もしAではなくBになったとしても、それは私の目指している方向にいけるんだと信じられるようになりました。そこが私の一番の生き方だと、すべての物事に対して思うようになりました。 ――ソニンさんの纏っているオーラがハッピーなのも、自分の選んだ道のすべてが正解になるという考えが根底にあるからかもしれないですよね。後悔もあまりしないですか? いやあ…どうでしょう。(後悔も)するけど…絶対そのままで放っておかないです(笑)! だって、苦い思いをしたまんまって、なんか悔しくないですか!? 予期せぬ何かが起こったとしても、それを絶対に生かします。前向きにしてやる、くらいの気持ち…何なら「あれがあってよかった」と思える人生にしたいので、結果「良かったよね」という方向に向けようとしますね。
シネマカフェ text:赤山恭子/photo:Jumpei Yamada