「せめて遺族に生前のほほ笑みを」犠牲者300人を復元した「おくりびと」は、仕事を投げ打って能登へ向かった ボランティアが示す「覚悟」
▽本当に必要な訓練とは 笹原さんは今回、医師や歯科医、葬儀関係者らと立ち上げた安置所や遺族の支援チーム「ジーニーズ」の代表として被災地で支援した。ジーニーズとは、「Grief care for Each person,No limits in any Emergency(どんな緊急事態でもそれぞれの方にそれぞれのグリーフケアを)」の頭文字から取った造語だ。チームとして初の実地活動となった。 設立のきっかけは、やはり13年前の東日本大震災。当時の安置所には気になる点がいくつもあった。遺族が、「動線」への配慮不足から他人の遺体を目にせざるを得なかったり、行政の「しゃくし定規」な対応に傷ついたりしていた。 その後、防災訓練の重要性が改めて叫ばれたが、避難所の設営訓練はあっても、遺体安置所に関する訓練は少ない。行政は死者の発生を想定した訓練を積極的に行わない傾向があるという。理由は「住民にとってショックになるから」。
しかし、実際に被災すればそんなことを言っていられない、と笹原さんは説明する。 「大災害では、死者が出ることは避けられない。ならば、そうした前提で備えるべきだ。安置所は犠牲者の尊厳を守り、災害後を生きていく家族を支える場所であってほしい」 東日本大震災を経験したからこそ「多職種のつながり作りや、日ごろからの訓練も必要」と考えられるようになり、それがジーニーズの設立につながった。 求めがあれば、今後も各地に出向いていきたいという。 ▽気持ち吐き出して 取材の最後、13年前の震災を経験した笹原さんに、能登半島地震の被災者に伝えたいことを聞いた。 「『こんな支援がほしい』と声を上げながら、日々を過ごしてほしい。時間は掛かるけれど、元の暮らしに戻れる日が必ず来ます。もしノートやペンが近くにあるなら、自分の身に起きた事や今の気持ちを日記として書き留めておくことも大切。悲しいことも書いて、できれば最後は明るい話題も書き添えてほしい。つらい経験が、いつか誰かの役に立つこともあるはずだから。生き残ったからこそ、できることがある。『一人じゃないよ』と伝えたいです」