結川あさき×矢野妃菜喜×中村悠一にとって“逃げ上手”とは 苦手なこととの向き合い方を語る
結川あさき「こんなにカッコいい逃げがあるなんて」
ーー実際に頼重を演じてみて、何を感じましたか? 中村:演じていて感じるのは、話数を重ねるごとに頼重が変化していくことですね。最初は自分の思惑もあったんです。でも、物語が進むにつれて時行という人間に触れ、彼の人間性を知るうちに、頼重の考え方も変わっていく。徐々に変化していく様子も見ていただきたいです。 ーー頼重は序盤からコミカルな雰囲気全開なキャラでもあります。 中村:確かに初めてアニメで作品に触れる方は、最初「変わったキャラクターだな」と思われるかもしれません。でも大丈夫です。物語が進むにつれてもっと奇妙なキャラクターがたくさん出てきます(笑)。原作の面白さはもちろんのこと、アニメではそういった特徴がよく分かります。声優みんな、全力で演じていますからね。 ーー「戦って」「死ぬ」武士の生き様とは反対に「逃げて」「生きる」ことで乗り越えていく。そんな主人公である時行の生き方をどう感じますか? 矢野:この作品って、「選択肢の1つとして逃げていいんだよ」ってことを前面に出してくれているんです。「逃げる」という選択肢で、本当に現実で悩んでいる子が生き延びられるんだったら、本当にその通りのメッセージだと思うんです。「こんな作品が出てきたんだ!」という驚きはありましたが、すんなりと受け入れられるあったかさがありますよね。 結川:逃げることに元々ネガティブなイメージは持ってなかったんですけど、作品に出会って「逃げる=カッコいい」という感想になったのは初めてでした。作中でも逃げるシーンは何度も出てきますが、基本、時行は前向きに前進するための逃げを選んでいます。逃げて終わりじゃなくて、次に進むため、生きて目標を成し遂げるため。こんなにカッコいい逃げがあるなんて、発見でもありました。 中村:単純に一兵士が逃げる場合は、“ただ逃げる”という行為だと思います。時行は立場上、血筋としてどうしても命を狙われてしまう。ということは、生きていることだけでも、血筋を守っていることになるわけです。だからこそ“逃げ”が意味を持って成立するし、逃げ続けて追ってくる相手と戦うのは、考え方によっては待ち伏せになるわけですよね。“逃げ”という言葉はネガティブな面を意識しがちですけど、その“逃げ”をうまく使って好転させていくのは作品の面白さでもありますね。 ーー皆さんは、自分の苦手なことにはどう向き合っていますか? 矢野:とりあえず、苦手でもやらなければいけないことは仕方なくやります(笑)。でも、基本的には、得意なことや好きなことの方に力を入れます。過去に苦手なことがあった時期も、好きなことだったから「続けたい」と思って頑張れました。本当にやりたくて好きなことだったから、なんとか食らいついてやれたんだと思います。でも、好きとか続けたいという気持ちがない限り、絶対に続かないなぁ……。 結川:私は苦手なことにも2種類あると思っていて。1つは、本当に苦手で嫌なもの。これは無理に得意になる必要はないと思います。一方で、妃菜喜さんが言っていたような、「苦手だけどどうしてもやりたいこと」や、「苦手だけど自分の好きなことのためにやらなければいけないこと」には向き合う必要があるんじゃないでしょうか。私の恩師が「苦手とか嫌いという言葉は使わない方がいい」と教えてくれたことがあって。例えば、数式が苦手なら「まだこの数式は得意じゃない」みたいな、ポジティブな言い方をする方がいいよねって。この教えを意識して、苦手という言葉はあまり使わないようにしてます。逃げるように目を逸らしながら、たまに向き合う。そういう戦い方もあると思うんです。 ーーちなみに恩師はどのような方なのでしょうか? 結川:中学時代に通っていた塾の塾長です。すごく入りたかった高校があって、中学校3年間は勉強漬けだったんです(笑)。夏休みは毎日朝8時から22時まで勉強したりとかしてたので。とにかく濃い時間でしたし、恩師には感謝しています。 中村:僕はもう、苦手なことには向き合わないですね。やることがたくさんあるので、苦手と向き合っている時間もそんなにありません(笑)。そもそも気質として好きなことや得意なことの方に興味が行っちゃうタイプです。それを一つずつタスクとしてこなしていくと、あっという間に時間が過ぎてしまうので。そもそも、全てのことができる人っていないと思うんです。人間誰だって、どうしてもできないことはあると思います。でも、そのできないことをずっと気にして、少しでも伸ばそうとするよりも、その人の魅力的なところをどんどん伸ばして個性にしていく方が素敵だと思います。足りないところは、そこが得意な人にサポートしてもらえばいい。まさに「逃げ上手」ですよね。苦手なことほど、やはり総合力で、みんなで戦った方がいいんじゃないでしょうか。
すなくじら