【9番街レトロ・京極風斗】「嘘」をボヤけたままにしておく趣。
神保町よしもと漫才劇場を拠点に活動している芸人「9番街レトロ」の京極風斗(きょうごく・かざと)さんは、極端なほどに“0か100か”で生きている。白か黒か、どちらが嘘なのか……、現代の世界には余白がないもので溢れている。はっきりすることは気持ちがいいことかもしれないけれど、それを息苦しく感じることもあるのでは? 時にはボヤっとした世界をそのまま堪能してみて。もしかしたら少しは楽になるかも? 現代人が患っている…「許せない病」
9番街レトロ・京極風斗
連載【0か100かで生きてゆく #57】 ー 許せない病 ー
Illustration: Kazato Kyogoku
趣のある世界
昔のドラマとかを見てると、誰もスマホを持っていないんですよね。 当たり前なんですけど。 現代人の我々からすると、スマホなしでどうやって生活してたんだろって思いますよね。 でも生活できてるんです。 当たり前なんですけど。 そのドラマのあるシーンで、BBQの約束をするんですね。でも結局メンバーは集まらないんです。 だからといって別に誰も怒りません。「そんなもんっしょ」みたいな空気なんですね。 このシーン実は、みんな来てるんです。来てるんですけど、主人公とヒロインを2人きりにさせるために来てないフリをしてるんです。 素敵じゃないですか。 現代で同じことが起きたらどうなるでしょう。 まずLINEしますよね。 「何時ぐらいに着く?」みたいな。 「私達は行かないから2人で楽しんで♪」って返ってきたらなんか冷めるじゃないですか。 結果的に2人で楽しむからいいのであって、2人で楽しむのを強いられるのは違うじゃないですか。 だからといって既読無視なんかされたら「は?」でしょ。 「インスタは上げてるやんけ」みたいな。 結局チラチラスマホを確認して、ロマンスしてる暇なんてないわけですよ。 確認できる分、諦めがつかないんですよ。 スマホがない時代は、その辺良い意味でいいかげんなんですよね。 「来るなら来る」「来ないなら来ない」理由は次会った時に聞けばいいんです。 これは僕の予想でしかありませんが、2人は「みんなが気を遣ってくれたんだな」とうっすら気付いていたんじゃないでしょうか。 許容範囲が広いというか、相手の気持ちを推し量る力が強いですよね。 「嘘」をボヤけたままにしておく趣みたいなものがあったんだと思います。 恋愛に限った話ではありません。 昭和にブレイクした俳優や芸人には逸話が多いですよね。 その当時SNSはないですから、そういった逸話は、近くで見た人や、本人に聞いた人から、伝言ゲームのように広がっていくわけです。 当然尾ひれは付いていきます。 それが話としてまとまった頃に、周知の事実として皆さんの耳に届くわけですから、僕は実際のところ大したことのない武勇伝なんじゃないかと睨んでいます。 犯罪まがいの逸話も多いですから、それが本当だとすると現代では芸能人としての選手生命は絶たれるわけで、故にこれから先、そういう伝説が生まれることはほとんどあり得ないんだなと思うとそれが寂しいんですよね。 別に誇張されててもいいじゃないですか。その方がワクワクするし、夢があるじゃないですか。 「嘘だ」と分かっていながらも楽しむぐらいの器でいたいじゃないですか。 SNSによって、人は他人を許せなくなったような気がします。 嘘がつけないって意味で健全っちゃ健全なんで、どっちが良いかは分かりませんが、僕はロマンの世界で芸人をやってみたかったなとたまに思います。 清廉潔白だけの無菌室みたいな世界が、果たして楽しいでしょうか。 ワンミスで首を斬られるような緊張感の中で生きたいですか。 みんながもう少し適当に生きられたら、現代の息苦しさも少しはマシになるのでは。 まぁ悪いもんは悪いけどね。