SNSで人気の都知事選候補「石丸前市長」だが…在任中に行った「専決処分」の“違法”とは
東京都知事選挙の立候補者の一人、前広島県安芸高田市長の石丸伸二氏は、その市長在任中の言動が一部のSNSユーザー等から熱烈な支持を得ている。 【X投稿】東京知事選への出馬を表明する石丸氏 市議会や一部の地元マスコミを攻撃するなど、石丸氏のスタイルは賛否両論を呼んだ。 しかし、わが国は法治国家である以上、本来、法的観点からの検証が欠かせないはずである。そこで本記事では、石丸氏が市長在任中に行って話題となった「専決処分」を取り上げ、その法的な問題点について検証を加える(全2回前編 )。
首長に認められている「専決処分」とは
「専決処分」とは、本来は議会が議決しなければならない事項について、緊急を要する場合などに行政運営の遅れや停滞を防ぐため、例外的に市長が議会に代わって意思決定することを指す。 石丸前市長が行った「専決処分」で、特に話題となったのが、以下の3つである。 ・道の駅への「無印良品」の誘致 ・市議会議員が市(市長)を名誉毀損で訴えた裁判の一審の賠償命令に対する控訴 ・「認定こども園」基本構想費の予算 本来、普通地方公共団体の首長が専決処分を行うことができるのは、以下の4つのケースに限られる(地方自治法179条1項)。 ①議会が成立しないとき ②定足数の特例(地方自治法113条但書)の場合でなお会議を開くことができないとき ③特に緊急を要するため議会を招集する時間的余裕がないことが明らかであると認めるとき ④議会において議決すべき事件を議決しないとき(天変地異の場合など) このうち①②④はきわめて特殊な場面であり、実際に問題となることが多いのは「③特に緊急を要するため議会を招集する時間的余裕がないことが明らかであると認めるとき」の要件である。 神奈川大学法学部の幸田雅治教授(地方自治法)は、この要件は地方自治における「二元代表制」の趣旨と専決処分の制度の沿革にてらし、厳格に解釈されなければならないと指摘する。 幸田教授:「前提として、首長による専決処分の制度がなぜ設けられているかを理解する必要があります。 わが国の地方自治の制度は、首長と議会の二元代表制をとっています。いずれも、住民の直接選挙によって選出されるものです。 まず、首長は行政機関として執行権を担い、予算提出権を持つとともに、その他の議案提出権を持っています。これに対し、議会は意思決定機関として議案の審議・議決により監視・コントロールする権限を担っています。 二元代表制の趣旨は、住民により選挙された異なる機関に相互にチェックをはたらかせることで、権力の暴走を防ぎ、住民による自治を実現することにあります。 しかし、議会の議決を得ることがどうしてもできない緊急の事態は必ず起こり得ます。そこで、市長がやむを得ず議会の代わりに意思決定を行うために、専決処分が認められているのです。 実は、以前は専決処分の要件はかなり緩く、首長により濫用される危険が大きいなどの問題が指摘されていました。そこで、2006年と2012年に二度にわたり改正が行われています。 まず、2006年改正では『特に緊急を要するため』という要件が設けられ厳格化されました。 次に、2012年改正では、条例・予算の専決処分をあとで議会が不承認としたときは、長は必要と認める措置を講じ、議会に報告しなければならないこととされました」 このように、地方自治法は、真にやむを得ない場合に限ってしか専決処分を認めていない。しかも、あとで不承認となった場合に首長に必要な措置を義務づけている。 つまり、法は専決処分についてきわめて厳しい態度をとっている。それは、歴史的に専決処分の制度が長によって濫用されやすい制度であったことへの警戒からきている。 2010年ころに問題となった鹿児島県阿久根市の例を引き合いに出すまでもなく、専決処分の制度がもつリスクは明らかといえる。石丸氏が市長として行った専決処分について論じるうえでは、この視点は必須である。