《安倍政権5年》アベノミクスで雇用改善 背後にある日本経済の構造変化
バランス取れた経済政策だが高齢化対応は不十分
アベノミクスは、当初、三本の矢として「金融政策」「財政政策」「成長戦略」が掲げられていました。現在は、このうち金融政策は日本銀行が担っており、安倍首相の言及は少ないように感じます。財政政策では政府支出は抑えられました。2015年からの新三本の矢では子育て支援や社会保障などか掲げられ、成長路線ではあるもののその中身も重視しています。 私は、現在の経済政策は財政面では、経済政策としては比較的バランスがとれているものの、高齢化に伴う社会保障増大の問題にはかならずしも対応できていないと考えています。そして、社会保障費の負担を実質的に支えている日本銀行の大量の国債購入は、いずれかの時点で問題が顕在化すると思います。金融政策の出口では、自然な償還で達成できるのか、金利の上昇をもたらしてしまうのかが問題です。また、すでに出口戦略を行っている米国で金利が上昇した場合、日本だけがこのまま低金利を維持できるかも不確かです。 また、団塊世代の高齢化に伴い、医療・福祉分野での需要が高まっています。今後、特に医療費が増大していく見通しで、これがさらに財政を圧迫します。政府が社会保障制度を現状のまま維持するのは難しくなってきています。 厳しい財政状況は、根本的には政府が国民の生活を保障するという方向性に原因があるように思います。すでに退職した高齢者が収入を確保するのは容易ではないので、ある程度の社会保障制度を維持するための消費税増税も止むを得ないとは思います。ただ、高齢者の労働力人口比率は、たとえば65歳の男性では2017年8月に33.4%に達しており、2009年の29.4%と比較しても高く、また、上昇し続けています。この高まりから考えると、老後の生活について国家に依存しているだけではなく、自立的に生きていこうとしている人も増えてきているように感じます。 社会保障費の削減も含む小さな政府を目指すのか、教育の無償化なども採用する大きな政府とするのか、政府のあり方そのものの議論が必要だと思います。
------------------------- ■釣 雅雄(つりまさお) 1972年北海道小樽市生まれ。一橋大学経済研究所助手などを経て、現在、岡山大学大学院社会文化科学研究科教授、日本経済などの授業を担当。専門はマクロ経済学や経済政策。著書に『入門 日本経済論』(新世社)など。博士(経済学)