《安倍政権5年》アベノミクスで雇用改善 背後にある日本経済の構造変化
2012年12月に第2次安倍政権が発足して以来、デフレからの脱却を目指して、安倍首相は「アベノミクス」と銘打った経済政策を推し進めてきました。「金融緩和」「財政出動」「成長戦略」を3本の矢を柱とするアベノミクスによって、円安・株高は進み、輸出産業などを中心とする大企業の業績は好転してきました。その後も国民総生産(GDP)600兆円の達成や介護離職ゼロなどを新しい3本の矢による「一億総活躍社会」などを掲げました。安倍政権は、名目GDPや企業収益、就業者数の増加などをアベノミクスの成果として挙げますが、アベノミクスの5年をどう捉えるか。岡山大学経済学部の釣 雅雄教授に2回にわたって振り返ってもらいました。今回は「雇用」を中心にみます。
株価は2万円台、就業者数も増加続く
今回の衆議院選挙における経済政策の争点は、アベノミクスの実績でしょう。企業業績は回復するとともに,最近では株価が2万円台を超え、8000円台にもなった民主党政権時と比べて大幅に上昇した感があります。さらに、就業者数が4年半に渡り増加し続けるなど雇用の改善も続いています。景気は長く回復し続けていて、企業へも労働者へもアベノミクスは功を奏しているようにみえます。 一方で、実感を伴わないとか、一部の企業のみが利益を得ているに過ぎないというような意見もあります。実際、賃金の上昇は限定的で、特に物価の変化を考慮した指標である実質賃金の伸びは低迷しています。現金給与総額の実質賃金指数(調査産業計、事業所規模5人以上、2015年平均=100)は、2013年の第1四半期に104.9だったものが、2017年第2四半期では100.5と、アベノミクスが始まった頃よりも低くなっています。 このような状態では、一般の家計の生活は好景気の実感はあまりないようです。例えば、内閣府「消費動向調査」における、家計(2人以上の世帯)の「暮らし向きの見通し」のアンケート結果は今年9月に43.9でしたが、2012年9月の40.6とほとんど同じで、今後良くなると感じている人が少なめです。 ただ、私は、このような議論に欠けているものがあり、それは、日本経済の構造が変化しているという視点だと考えています。経済政策とは無関係に、少子高齢化が雇用に影響を与えています。主に医療・福祉などのサービス業で雇用は増加しており、また、女性や高齢者の参加が増えています。 一方、製造業は、例えば輸出産業では円安で利益が増えたものの、雇用につながる生産量や輸出量が増えない状況が続いてきました。円安は必ずしも雇用を生み出さず、一方で労働供給は増えたので、賃金は上がらなかったと考えられます。また、円安による生活品やエネルギーの価格上昇が家計を圧迫して、実質賃金の低下を招きました。このように、雇用改善は続いているものの、アベノミクスには課題もあります。