首相の「大統領職務代行」は違憲? 混乱の韓国、どうなる弾劾採決
韓国の尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領による「非常戒厳」の宣布と解除を受けて、政権運営は混乱の極みに達している。7日採決の弾劾訴追案を所属議員の大半が欠席することで廃案に追い込んだ保守系与党「国民の力」は、尹氏を政権運営から排除し、韓悳洙(ハン・ドクス)首相が事実上、国政運営を担う方法で難局を乗り切ろうとしている。ただ野党や国民の反発は強く、今後さらに厳しい立場へと追い込まれそうだ。 【写真まとめ】肖像画が人気 主な韓国大統領 国民の力の韓東勲(ハン・ドンフン)代表と韓首相は8日、「共同談話」を発表した。韓代表は尹氏に早期退陣を改めて求めたうえで「退陣前でも大統領は外交を含む国政には関与しないだろう」と強調。事実上、韓首相が国政運営を担うと説明した。 韓代表は、国民の多数は「大統領は正常な国政運営ができず大統領職から退くべきだ」と考えていると指摘。「秩序ある大統領の退陣」によって「混乱を最小限に抑え、国民と国際社会の不安を解消し、国民の生活と国の尊厳を回復させる」と訴えた。 韓首相は、日米や友好国との信頼関係を維持するため「外相を中心に内閣が最善を尽くす」と強調。「与党と共に知恵を集め、国家機能を安定的かつ円滑に運営する」と述べた。また、政府提出の予算案や法案の早期可決に向け、野党に協力を呼びかけた。韓代表と韓首相は「国政の安定」を強調し、弾劾ではなく韓首相が事実上、国政運営を率いる方法で国民の理解を得たい考えだ。 ◇野党は「違憲」と批判 しかし、野党は韓首相による大統領職務の代行は憲法に規定がなく、「違憲だ」と批判する。「共に民主党」の金民錫(キム・ミンソク)最高委員は8日、首相に外交権や軍の統帥権などを行使する権限はないとし「国政運営の中心になるのは憲法上不可能だ」と指摘した。 憲法は首相が大統領職務を代行できる条件を「大統領が空席となったり、事故によって職務が遂行できなくなったりする時」と規定している。国防省の報道官は9日、軍の統帥権は現在も「大統領にある」と明言した。聯合ニュースは、外交の権限についても首相が代行できないとの専門家の見方を伝えた。 尹氏は7日の弾劾案の採決に先立ち、自身の任期や、政局を安定させるための方策を与党に一任すると表明した。与党内からは、大統領の任期を1期5年から2期4年にする改憲をしたうえで、尹氏が1期目で辞任する案が出ている。辞任までの間は韓首相に国政運営を委ねるという。 与党は、尹氏への弾劾訴追案が可決されて尹氏が失職すれば早期の大統領選となり、共に民主党に政権を奪還される可能性が高いとみている。このため尹氏を延命させて時間稼ぎを図っている側面もある。 共に民主党はこれを批判し、弾劾訴追案の早期可決を目指す。だが弾劾案は与党から8人以上の賛成が出ない限り可決できない。野党は廃案となる度に、毎週土曜に採決する構えだ。 与党に対して弾劾可決を求める世論の圧力は強まっており、9日には進歩系の新聞2紙が1面トップで、7日の弾劾案の採決に欠席した与党議員105人の顔写真と氏名を掲載し、批判した。【ソウル日下部元美、福岡静哉】