ザポロジエ原発対岸の町、戦闘激化で核汚染の恐怖 4460軒被弾でも反撃できず…「逃げ場ない」無力の高齢者
「原発がなければ、こんなことにはならなかった」。ウクライナ南部ザポロジエ原発を陣地にしたロシア軍から連日、攻撃を受ける対岸のニコポリ市。命拾いしたワシリー・ルバンさん(95)は5月29日、「逃げ場がないんだ」と嘆き、戦火による原発事故への恐怖も訴えた。(共同通信=文・佐々木健、写真・篠雄也) ▽10秒で着弾、避難不可能 ウクライナを縦断する大河ドニエプル川を挟んで原発まで約10キロ。「原発から砲撃するロシア軍には反撃できない。私たちをあざけり、暴虐を続けている」と憤る。昨年7月に攻撃が始まって以来、市内で4460軒以上の建物が損壊。市民16人が死亡し、125人が負傷した。最短で10秒もかからず着弾するため、住民に緊急避難を促しても被害を防ぐのはほぼ不可能だ。 ルバンさんは今年5月3日夜、自宅の窓際に座ってお茶を飲んでいた時、突然、耳が聞こえなくなるほどの爆音とともに床に倒れた。隣の寝室にいた妻ライサさん(87)は、重度の糖尿病のため自力で起き上がれず、視力も失っている。床をはって近づき「生きてるか?」と呼びかけ、無事を確認するのがやっとだった。
自宅の壁のすぐ手前に着弾し、かろうじて直撃は免れた。背面の窓ガラスや壁が壊れ、庭の菜園に穴ができていた。天井の壁紙は今も飛び散った破片の衝撃であちこち破れたままだ。 ▽敵は核大国、原発を要塞化 ウクライナ軍が反転攻勢に出る中、戦闘の激化は必至だ。ルバンさんは「ロシアのプーチン大統領はソ連時代の兵器をたくさん持っている。核大国に武力では対抗できない」と悲観。「外交で勝つしかない」と冷静に訴える。 欧州最大の原発にロシア軍は兵器を集積し、弾薬庫を設置。攻撃や事故で放射性物質が拡散し、周囲が汚染される事態が懸念されている。 原発が立地するエネルゴダール市のドミトロ・オルロフ市長(38)によると、ロシア軍は原発を要塞化し、推定で最大千人が駐留している。原子炉建屋周辺には電磁波で敵の通信やレーダーを妨害する電子戦システムも配備した。原発周辺には占領当初から地雷を埋設してきたが、ここ2~3カ月間、市街地の近くにも追加で埋めているという。